02-所得税

金融所得課税は分配に有効か?

金融所得課税は分配に有効か?

岸田首相は政権公約で「成長と分配の好循環」のため、「金融所得課税の見直し」を選択肢の一つとし、『1億円の壁』の打破を打ち出しましたが、首相就任後、早々に先送りしました。はたして金融所得課税は、分配政策として有効なのでしょうか?

富裕層が優遇される 1 億円の壁とは?

所得が 1 億円を超えると、所得税の負担率が下がります。これは、富裕層で株式や債券など金融商品に投資を振り向ける金額が大きくなり、分離課税 20.315%(所得税15.315%、住民税 5%)の結果、総合課税の累進課税の効果が薄まることによると考えられています。
そこで、所得税の分配機能を高めるため、金融所得課税の税率をあげることにより、富裕層の負担を増やして分配の原資にあてるべきと考えたわけです。

むしろ中間層の課税強化につながる

証券系シンクタンクの 2018 年の調査レポートは、所得1億円を超える納税者は全体の 0.04%に過ぎず、金融所得の税率を引き上げても増税による税収は少なく、むしろ金融商品に投資する中堅以下の所得者層の増税効果の方が大きいと分析しました。
また、税率の引上げは創業意欲を減退させ、投資家がより低い税率の海外に逃避するおそれも指摘されています。これでは従来の「貯蓄から投資へ」の政府方針に反する結果にもなりかねません。

「新しい資本主義実現本部」の立ち上げ

政府は 10 月に「新しい資本主義実現本部」を立ち上げ、成長政策とあわせて賃上げや非正規雇用、看護・介護・保育、子育て支援などの分野で分配政策の検討を開始しました。税制では「新しい資本主義の時代における今後の税制のあり方」を政府税制調査会で検討することが盛り込まれています。

分配政策の社会的意義

産業革命以降、成長と分配はいつも経済政策の主要課題でしたが、この 40 年間、新自由主義は世界中で所得格差と分断を広げました。これに対し、分配の公正と貧困の解消の立場で自然環境、社会的インフラ、教育や医療などの社会的共通資本を、豊かな社会をつくる装置として機能させることを提唱した経済学者もいます。成長と分配はこれからも経済の根源的な課題であるといえます。累進課税や資産課税に所得再分配機能をもたせてきた税制も新たにどのような分配政策を考えられるかが問われます。

 

令和 3 年年末調整

令和 3 年年末調整

令和 3 年年末調整

変更点と誤りやすい点


印鑑不要になった!

年末調整は、給与を受ける人それぞれについて、原則毎月の給与や賞与などの支払いの際に源泉徴収した税額と、その年の給与の総額について納めなければならない年税額とを比べて、その過不足を精算する手続です。今年は去年と比べると所得税計算本体への改正はないものの、手続的な部分での改正がありました。
「押印義務の改正」により、源泉所得税関係書類については、押印を要しないこととされました。このため、扶養控除等申告書などの年末調整の際に使う書類についても従業員の皆さんに押印をしてもらう必要がなくなりました。地味ですが手間の省ける改正ですね。その他、源泉徴収関係書類を電磁的に提供する場合の、給与等の支払者が受けるべき税務署長の承認が不要とされたため、従来は税務署に提出が必要だった「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」が不要となりました。


令和2年改正部分に注意

今年の年末調整に目新しい変更はないものの、令和2年に改正が行われた「所得調整控除」「寡婦・ひとり親控除」「基礎控除」には注意が必要です。
所得調整控除は給与収入が 850 万円超の方が対象で「配偶者の扶養している子供でも、所得調整控除は両方の親に対して行える」点に注意しましょう。寡婦・ひとり親控除は令和 2 年から適用条件が変更されて「所得金額 500 万円以上の方は一律無効」となりました。基礎控除は「給与以外の所得も含めて、合計所得 2,400 万円超で逓減が開始」です。
新しいルールのため、細かい条件を取り違えて計算している例が散見されます。今年も注意して計算をしましょう。


電子化のメリットも考えて

計算式や控除上限等の変更、そして紙の記載フォーマットの変更と、年末調整は過去と比較すると明らかに複雑化しています。
従業員が控除額を計算して、

所得税

死亡退職の場合の給与計算

死亡退職の場合の給与計算

社員の死亡退職の際の給与計算

在職社員の死亡退職に係る給与計算は、通常退職の手続きと、少し違ってきます。
死亡後に支給期が到来する給与の振込は、本人口座が凍結されるので、遺族の口座となります。また、社会保険の脱退や埋葬料の請求等で遺族に手続きを依頼する場面も生じます。会社側も慌てず粛々と手続きを進めて下さい。
給与課税は、死亡前に支給されたものが対象となり、「給与所得の源泉徴収票」の「支払金額」欄には、死亡前に支払が確定している給与の合計額を記載します。年末調整は死亡時の扶養等の現況で行います。死亡後に支給期の到来する給与については、相続財産となり、所得税の課税対象となりません。
給与から控除している住民税の特別徴収は、死亡後に支給する給与から一括控除して会社が納付するのか、後日遺族が普通納付するのか、遺族に意向を確認します。それを受け、会社が「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出します。

課税関係の精算は遺族が行う

会社側で年末調整が行われますが、医療費控除等がある場合は、相続人が被相続人の確定申告(いわゆる「準確定申告」)を行うことで、所得税関係の精算ができます。
遺産が相続税の基礎控除額を超えていれば、相続税の申告も必要です。死亡後に支給期が到来して相続人口座に振り込まれた金額も相続財産ですので、申告漏れのないよう留意が必要です。

社会保険ほかの手続き

社会保険と雇用保険で資格喪失手続きを行います。死亡日=退職日となり、資格喪失日は死亡日の翌日となります。社会保険料の給与からの天引きがひと月遅れで、資格喪失前の社会保険料の納付義務が発生していた場合には、最後の給与から控除します。健康保険証は返却してもらいます。
なお、遺族からの申請で、埋葬料・傷病手当金・高額療養費を受け取ることができる場合もあります。これらの申請には、種々の適用要件がありますので、会社もしくは会社の顧問社会保険労務士から遺族側に説明をし、会社が手続きを誘導して、申請漏れで受け取ることができなくならないよう迅速に対応を進めていくことが大切です。