05-その他税法

青色申告 65 万円控除と 電子帳簿保存法

青色申告 65 万円控除と
電子帳簿保存法

青色申告 65 万円控除と 電子帳簿保存法

e-Tax しないが 65 万円控除は受けたい

令和 2 年分以後の所得税について、青色申告特別控除の適用要件が改正され、65 万円の青色申告特別控除の適用を受けるためには、それまでの要件に加えて、e-Tax による申告か、電子帳簿保存を行うことが必要になりました。
個人事業主の方の中には、「e-Tax ができない」という方がいらっしゃるかもしれません。今回は、電子帳簿保存で 65 万円控除を受ける場合の手続きを解説してみます。

改正もあるがあまり変わりなし

電子帳簿保存法については、令和4年1月 1 日から適用される改正があり、これまで電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担軽減のために、不要とされました。
ただし、この「事前承認不要」はあくまで電磁的記録による保存を開始する場合の話で、65 万円の青色申告特別控除の適用を電子帳簿保存によって受けたい場合は「国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書」を提出する必要があります。
また、一般的な電子帳簿保存については正規の簿記の原則に従って記録されるものであれば、最低限の要件を満たす電子帳簿についても電磁的記録による保存が OK となったのですが、65 万円の青色申告特別控除の適用を受ける場合については「優良な電子帳簿」の要件である、検索要件や帳簿間の相互関連性の確認など、より高度な措置が必要となります。

過少申告加算税 5%軽減のため?

電子帳簿保存法に適合する優良な電子帳簿を作成するのに比べ、インターネット環境とマイナンバーカードくらいの準備で e-Tax はできます。65 万円の青色申告特別控除の適用を受けるための選択としては、e-Tax を行う方が圧倒的に楽です。
青色申告特別控除の要件とは別に、今回の改正で「優良な電子帳簿」の保存要件を満たしていれば、記録された事項についての申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置が受けられるので、そちらを受けようとする場合には申請を行う、くらいの気持ちで良いのかもしれません。

ふるさと納税と 住宅ローン控除

ふるさと納税と
住宅ローン控除

ふるさと納税と 住宅ローン控除

住宅ローン控除とふるさと納税の誤解

個人の所得・控除によって決まる控除上限金額までの寄附なら、自己負担が 2,000円で返礼品が貰えるふるさと納税制度。「お礼の品で地方の特産品が貰えてお得なのは知ってるけど、ウチは住宅ローン控除がたくさんあるからふるさと納税できないのではないか」と躊躇している方が居るかもしれませんが、実は住宅ローン控除がたくさんあっても、ふるさと納税がお得に楽しめるケースが圧倒的に多いのです。

控除上限額は住宅ローンでは変わらない

ふるさと納税の控除上限金額は、大まかにいうと「所得に対する住民税の額」の大小によって決まります。住宅ローン控除は所得税を引き切ってしまった場合、特例として残っている住宅ローン控除の額で、定められている限度額までは住民税を引いてくれますが、その住民税を引く計算は「税額控除額」という扱いとなっていて、ふるさと納税の控除上限金額を計算する上での「所得に対する住民税の額」には影響しないような作りになっています。
よって、住宅ローン控除がいくらであっても、ふるさと納税の控除上限金額に変化はありません。ただし、「所得税を引き切っていて、住民税を定められている限界値まで引いている」場合で、ふるさと納税を確定申告した場合、「税金を引けない部分が出てしまう」ことで、上限以内の寄附でも自己負担が 2,000 円以上かかるケースがあります。

自己負担は 2,000 円では済まないが得?

「自己負担が 2,000 円以上かかる」とはいえ、税が減らないのは所得税部分のみとなるため、自己負担が増える額は少ないのです。住民税側の控除は行われるため、寄附によって貰えるお礼の品の価値を考えると、控除上限金額までの寄附であればお得感がある場合が多くなります。
また、住民税を限界まで引いていたとしても、確定申告をしない方で 5 か所以内の自治体への寄附であれば利用できる「ワンストップ特例制度」を使えば、住宅ローン控除で自己負担が 2,000 円で済まない問題は無視できます。
不安な方はワンストップ特例制度を積極的に利用するとよいでしょう。

令和 4 年 1 月 1 日から施行 電子帳簿保存法の補足説明

令和 4 年 1 月 1 日から施行
電子帳簿保存法の補足説明

令和 4 年 1 月 1 日から施行 電子帳簿保存法の補足説明

電子帳簿保存法の改正

経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和 3 年度の税制改正において「電子帳簿保存法」の改正が行われ、令和 4 年 1 月 1 日から施行されます。
改正内容は、電子帳簿等保存に関する事前承認の廃止や、タイムスタンプ等を利用した優良な電子帳簿については過少申告加算税の軽減措置、最低限の要件を満たす電子帳簿についても電磁的記録として認める、スキャナ保存についても要件の緩和等、以前の状態からかなり使いやすくなった印象です。

問題は電子取引に関する改正事項

この電子帳簿保存法改正で、一番頭を悩ますのは「電子取引に関する改正」です。多くの方が「えっ!?」と思うのは「電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました」という一文です。
今まで領収書をメール等で受けとって、それを紙で出して保存していたという会社も多いとは思いますが、それが原則禁止となってしまいます。

罰則はあるのか?

国税庁は「電子帳簿保存法一問一答」という文書で「保存要件を満たさないため、全て書面等で出力して保存しているのだが、青色申告の承認取り消しや、経費として認めないということはあるのか?」という問いに対して「青色申告の承認の取り消し対象となり得る」と回答しました。
この回答については問合せがとても多かったのか、後に「お問合わせの多いご質問」として補足説明を出しており「書面保存等していた場合でも、それ以外の特段の事由がないにもかかわらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではない」と、表現をとても柔らかなものへ変更しています。つまりは、電磁的な保存をしていなくても、それだけでは青色の取り消しや経費の否認はないということです。

国税のスマホ決済延期

国税のスマホ決済延期

国税のスマホ決済延期

令和 4 年 1 月 4 日に間に合わない

国税庁は令和 3 年 9 月 21 日、3 年度税制改正で発表していたスマートフォンを利用した決済サービスを、4年1月4 日からの開始としていたところ、4 年 12 月に延期することを明らかにしました。
令和 3 年 6 月に、スマホアプリ納付を実現するために必要なシステムなどを構築する事業者の調達手続きを行ったところ、新型コロナウイルス感染症の中、デジタル投資の加速に伴う ICT 人材不足等もあり、入札者が現れず、事業者の決定に至らなかったようです。

地方税は先に導入が進んでいる

地方税を見てみると、各都道府県・市区町村によって取扱いの決済アプリの種類は異なるものの、スマホ払いで普通徴収の都道府県・市区町村民税や軽自動車税、国民健康保険料等が支払えるサービスが進んでいます。利用できる決済アプリは自治体によって異なるものの、PayPay、LINE Pay、PayB、楽天銀行アプリ、銀行Pay(ゆうちょPay)、au PAY、FamiPayなど、多岐にわたります。導入の数を見てみると、市井でのシェアの高いPayPayとLINE Payの採用が多いようです。
地方税でのスマホ決済の普及は令和元年10 月に「地方税共通納税システム」が導入され、電子申告に加えて電子納税が可能になり、自治体の事務負担が軽減されたことも背景にあるようです。

IT人材の不足は深刻?

経済産業省の調査によると、令和 12 年には IT 人材の不足数が最大で 79 万人になるという試算が出ています。これは IT 業界の急成長、スマートフォンの台頭をはじめとした IT 技術の急速な変化、少子高齢化による人材不足等が原因とされています。エンジニア不足への対策として、企業では採用年齢の引き上げや待遇改善を打ち出し、政府対応としては 2 年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されましたが、現状国税のスマホ決済システムの構築に至れなかった事実があり、IT人材の不足は深刻なのかもしれません。
国税庁は税務行政のデジタルトランスフォーメーションを掲げていますが、解決すべき課題は外的環境にも多く存在しています。

ふるさと納税で注意するべき 今年の控除上限金額の計算

ふるさと納税で注意するべき
今年の控除上限金額の計算

ふるさと納税で注意するべき 今年の控除上限金額の計算

そろそろふるさと納税の季節です

これから年末にかけてが、ふるさと納税のシーズンです。
ふるさと納税は、通年寄附ができるのですが、自己負担が 2,000 円で済む、いわゆる「控除上限金額」が、今年1~12 月の所得や控除で決まるため、年末に今年の状況を把握して寄附する方が多く、ふるさと納税を受け付けている自治体・代行業者が広告を打つ数も増えるため、駆け込み需要も巻き込んで年末に活況となります。
今年途中で転職・退職した方や、不動産所得や事業所得がある方、株や不動産の譲渡があった方等は、去年の確定申告書等の数字で控除上限金額を算出すると、実際の金額との乖離が出てしまう可能性がありますので、注意が必要です。

退職した際は要注意

退職所得は残念ながら、ふるさと納税の計算には入りません。ただし、退職金を年金払いで貰う場合、その年ごとに支払われる年金はふるさと納税の計算に入ります。
年の途中に退職された場合は、去年と比べると給与収入は下がっているはずですから、ふるさと納税の控除上限金額も下がります。

事業・不動産の所得金額を仮決算

ふるさと納税の控除上限金額は、大まかに言うと来年 6 月から徴収される住民税の大小によって決まります。事業や不動産収入がある方は、給与収入のみの方と比べると、経費や減価償却費、固定資産税等を引いた後の所得金額が年によって変動しやすいため、ふるさと納税の控除上限金額が把握しにくくなります。このあたりは年末までに仮決算を組み、所得を予想して対処するしかありません。

特定口座源泉徴収ありの譲渡益に注意

株式の譲渡益も、ふるさと納税の控除上限金額の計算に利用できますが、特定口座源泉徴収ありの場合、内容を確定申告しないとふるさと納税に利用できません。
ただし、確定申告に出してしまうと、国民健康保険加入の場合は保険料が上がってしまったり、配偶者控除や基礎控除の減少・消失が発生したりと、デメリットも存在するので注意が必要です。ふるさと納税の控除上限金額の増加で貰えるお礼の品の価値と、保険料や税金の増加の額を鑑みて、有利不利の判定が必要となってきます。

コロナ禍の税務調査

コロナ禍の税務調査

コロナ禍の税務調査

コロナ禍で実地調査は大幅減

令和 2 年 4 月に 1 回目の緊急事態宣言が発令されてから、もう随分と経ちました。
統計が出ている令和元事務年度(元年 7 月~2 年 6 月)の税務調査件数を見てみると、すでに新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、実地調査の件数は前年比 77%となっています。おそらく 2 年度も実地調査は少なかったと推測されます。
このコロナ禍において、申告期限は延長が容易になり、調査どころではなかったというのも実情だとは思いますが、税務署も相当柔軟な対応を取っていて「コロナ禍で不安なので延期して欲しい」という要請もある程度通っていたようです。また緊急事態宣言の間をぬって調査の日程を組んだものの、該当税務署で感染者が発生し日程は解消、そのうちに人事異動で結局立ち消え、といった事例もあったようです。

接触機会低減を目指した措置?

実地調査件数は下がったものの「簡易な接触」と表現される書面や電話による連絡、資料の提出依頼や来署依頼による面接等で、税務署が納税者に対して自発的な申告の見直しなどを要請する手法については、平成30 年度と比べて件数が上昇しています。
また、今までは FAX や郵送で対応していた調査・照会等で提出を求められた資料の送付が、令和 4 年 1 月から e-Tax で送信できるようになります。

国税庁は「ウィズコロナ」を準備

国税庁はすでに「納税者の理解を得て、税務調査の効率化を進める」として、大規模法人を対象にした Web 会議システムやリモートアクセスを利用した税務調査を試験的に導入しています。
今後は AI やデータマッチングの導入を行い「申告に対してコンピュータ側で間違いをチェック」するような機能の拡充を行うとしており、元々ICT 化を目指していた上で、コロナ禍に乗じてその方策を加速させているように感じます。
税務関連の手続きは、平成 16 年に e-Taxの運用が始まってから、今日に至るまで、電子化を地道に進めてきました。これからも「便利な改善」が続いてゆくでしょう。

 

その他税務

悪質な脱税犯に対する追徴税額

悪質な脱税犯に対する追徴税額

脱税に対する罰金

脱税した儲けは、税務調査できっちりと押さえられ、本来納めるべきだった税額に加え、一種の行政罰である加算税が課せられ、さらに納付遅延に対し延滞利息に相当する延滞税もしっかりと上乗せされます。
脱税に関する報道では、末尾に、納税者のコメントとして、「国税局からの指摘を真摯に受け止め、既に修正申告を行い、納付も済ませている……」とありますが、本来納めるべきだった脱税額に加え、いったいどれくらいの罰金が追加で持っていかれるのでしょうか?

脱税の悪質さで罰金の度合いが違ってくる

税務調査により追徴税額が発生したといっても、すべてが悪質な脱税というわけではなく、何も隠してはいなかったけれども所得認識の時期のずれで追徴税額が発生したというケースもあります。本稿では、意図的に儲けを隠したいわゆる“脱税”の場合に、どんな罰金が掛かってくるのかについて考えます。また、一口に脱税といっても、実際の儲けより少ない金額で申告して誤魔化している場合(=過少申告加算税)や、全く申告せず=無申告で儲けを隠している場合(=無申告加算税)等、その悪質さの程度も変わってきます。
そして、その脱税のしかたについても、「二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入・経費の計上、棚卸資産の一部除外等」の事実の隠蔽や、「取引の他人名義の使用、虚偽答弁等」の事実の仮装があった場合には、より悪質なものとして、さらに重い罰則(=重加算税)に代えられます。

脱税の罰金はどれくらいになるのか?

いったいいくらの追徴となるのでしょうか。話を単純にするため、本来の税金を地方税まで含めて税率30%とします。
(1)所得を少なく申告した場合
本来の税金30%+重加算税30%×(35%+過去5 年内重加算税あり10%)→43.5%。
(2)無申告の場合
本来の税金30%+重加算税30%×(40%+過去5 年内重加算税あり10%)→45%。
悪質な脱税では本来納めるべきであった税金の最大1.5 倍にもなってしまいます。
また、延滞税が年7.3%で課せられます。さらに、給与等の源泉税が悪質な不納付の場合、35%+10%の重加算税も発生します。