05-その他税法

結局どうなった? 電子取引データの保存方法

結局どうなった? 電子取引データの保存方法

結局どうなった? 電子取引データの保存方法

大騒ぎした電子帳簿保存法

電子帳簿保存法の電子取引データの保存は、令和6年1月からは保存要件に従って行うことが義務付けられました。ただし、令和5年までに措置された「宥恕措置」に代わり令和6年からも「猶予措置」が用意されており、なし崩し的に緩やかなルールに落ち着いたという感想です。 

実際に個人事業者・法人が「最低限何をやらなければならないのか」を見てみましょう。 

最低限の前に、求められていること

電子取引データのデータ保存には大きく2つのことを求められています。「可視性の確保」と「真実性の確保」です。

可視性の確保とは、モニタや操作説明書の備付けと検索要件の充足で、真実性の確保とは、不当な訂正削除の防止に関する事務処理規定の制定と遵守です。要するに取引データを PC で検索できるようにしておくのと、データの訂正や削除をする際の規定を作っておきなさい、ということです。 

ただし、検索要件については、2課税年度前の売上高が5,000 万円以下か、電子取引データをプリントアウトして日付及び取引先ごとに整理してあり、電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしていれば不要です。

最低限必要なのは「できない理由」? 

電子取引データの保存の要件を満たせない場合でも「猶予措置」が設けられていて、その要件は「ルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所属税務署長が相当の理由があると認める場合」と「税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求めか、電子取引データを印刷したものの提示や提出の求めに応じることができるようにしている場合」を満たしていることです。ちなみに「相当の理由」について事前申請等は不要です。

つまり、「人手不足」「資金不足」「システム整備が間に合わない」等のできない理由の準備と、電子取引データを消さないように保存しておけば、現状最低限、電子取引データの保存については大丈夫ということになります。 

ただ、経理のICT化・DX化は生産性UPにも繋がります。電子帳簿保存についても、自社のタイミングでルール策定やシステム改修をご検討ください。

国税庁からのお知らせ 令和7年1月から控えは印なしに

国税庁からのお知らせ 令和7年1月から控えは印なしに

国税庁からのお知らせ 令和7年1月から控えは印なしに

申告書等の控えに収受日付印を押さない

 国税庁は令和6年1月4日に、令和7年1月以降は申告書等の控えに収受日付印の押捺を行わないこととする、と発表しました。対象となる「申告書等」とは、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他の書類の他、国税庁・国税局・税務署に提出される全ての文書とのことです。

 令和7年1月からの書面申告等における申告書等の送付時には、申告書等の正本(提出用)のみを提出してください、とWeb上でお願いしています。また、必要に応じて自身で控えを作成、提出年月日の記録・管理をするようにも呼びかけています。


申告書等の提出事実を証明する方法

 例えば個人が融資を受ける、奨学金の申請を行う、保育園の手続きする、等の際に確定申告書の控えを要求されることがあります。ただ、この控えについては「収受印があること」が控えたりうる要件であり、収受印がない控えについては、個人の収入等が証明できないため、各種手続きに利用できない可能性が大です。

 オンラインサービスを利用せず、紙媒体で効力のある収入証明を手に入れる場合には、税務署に対して「保有個人情報の開示請求」を行うか、「納税証明書の交付請求」を行う必要があります。

 個人情報の開示請求は手数料300円、納税証明書は税目ごと1年度1枚につき400円です。

オンラインなら無料

 e-Taxを利用した申告であれば、申告等データの送信が完了した後に、税務署からの受信通知がメッセージボックスに格納されます。ここから申告書等のPDFファイルを無料でダウンロードすることができ、こちらには受付日時等が記載されますから、旧来の控えの役割を果たすものが欲しい人はe-Taxを活用しなさいね、という風に聞こえます。

 国税庁は税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めているとしていて、その一環の措置とのことなのですが、便利な機能が増えて利便性が向上する方が多い一方、インターネット等のサービスを上手く使えない方にとっては不便になることは確かです。また、不便ならまだしも「手続き等ができない人」が出てきてしまわないか、少し心配になります。


令和6年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和6年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和6年度税制改正大綱 納税環境整備編

インボイス制度による確定申告の環境整備

   6年度はインボイス制度導入後、初めての確定申告になりますが、円滑な申告手続きが行われるよう税務署にて2割特例の周知や納税者に対する相談体制を確保します。

税務手続きのデジタル化推進

  法人がGビズIDを入力してe-Taxより申請等を行う際の識別符号、暗証符号の入力、電子署名、電子署名に係る電子証明書の送信を不要とし、国税の納付を行う際の識別符号、暗証符号の入力を不要とするなど利便性の向上をはかります。

隠ぺい・仮装による更正の請求は重加算

  隠ぺい・仮装の事実に基づき更正請求書を提出している場合は、重加算税の適用対象となるほか、地方税においても重加算金の適用対象となります。

  偽りその他不正の行為により国税を免れた場合、延滞税の計算期間から一定の期間を控除する特例が不適用となる措置について隠ぺい・仮装の事実に基づき更正請求書を提出していた一定の場合が加わります。

  この措置は、令和7年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税及び同日以後に申告書の提出期限が到来する地方税に適用されます。

偽り・不正行為に対する第二次納税義務

   偽りその他不正の行為により国税や地方団体の徴収金を免れ、又は還付を受けた株式会社等に徴収不足が認められたときは、その株式会社等を支配する役員等は、その免れ、又は還付を受けた額、又はその株式会社等の財産のうち、その役員等が移転を受けたもの及び移転をしたもののいずれか低い額を限度として第二次納税義務を負うこととされます。

  この措置は、令和7年1月1日以後に滞納となった国税及び同日以後に滞納となった一定の地方団体の徴収金に適用されます。

保全差押え等の解除期限の整備

  納税義務があると認められる者が不正に国税や地方団体の徴収金を免れたことの嫌疑等に基づき処分を受けた場合、税務署長が決定する金額を限度とした保全差押え、又はその保全差押金額について提供される担保に係る国税や地方団体の徴収金について納付すべき額の確定がない場合、その保全差押え又は担保を解除しなければならない期限は、保全差押金額を通知した日から1年(現行6月)を経過した日となります。

  この措置は、令和7年1月1日以後にされる保全差押金額の決定に適用されます。

令和6年度税制改正大綱 国際課税編

令和6年度税制改正大綱 国際課税編

令和6年度税制改正大綱 国際課税編

グローバル・ミニマム課税への対応

  BEPSプロジェクトは、国際的な租税回避と利益移転を防止する対応策として2つの柱を提示しました。第1の柱は、恒久的施設(PE)のない市場国にも海外からの音楽配信や書籍販売等からの収益について新たな課税権を配分するもの、第2の柱は、法人税率引下げ競争に歯止めをかけ、最低税率を15%以上とするものです。

  第2の柱は、令和5年度税制改正で所得合算ルール(IIR)が先行して法制化されており、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から施行されます。総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業に適用され、軽課税国に所在する子会社の実効税率が15%を下回る場合、親会社に最低税率15%に至るまで上乗せ課税するものです。令和6年度税制改正では、制度の一部見直しが行われます。

  なお、軽課税国に所在する親会社の実効税率が15%を下回る場合、子会社に最低税率15%に至るまで上乗せ課税する軽課税所得ルール(UTPR)及び、自国の事業体が最低税率15%に満たない場合、最低税率まで課税する国内ミニマム課税(QDMTT)については、令和7年度改正以降に法制化されます。

暗号資産等取引情報の報告制度の創設

  暗号資産等を利用する国際的な脱税や租税回避を防止するため、令和4年OECDで策定されたCARF(暗号資産等の取引や移転に関する自動的情報交換の報告枠組み)に基づき、非居住者の暗号資産等取引情報を各国の税務当局間で自動的に交換するための報告制度が新たに整備されます。暗号資産等にはビットコイン等だけでなく、トークン化された金融商品、NFTも含まれます。令和8年1月1日以後、暗号資産交換業者等との間で行われる非居住者の暗号資産等取引について、当該交換業者等から所轄税務署長に取引情報等の提出が義務付けられます。

金融口座情報の報告制度の見直し

  富裕層のタックスヘイブン等を利用した課税逃れに対する国際的な批判の高まりから、平成27年度税制改正では、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税や租税回避を防止するため、金融機関には非居住者の金融口座情報の提供を義務付け、各国の税務当局間で情報を自動的に交換する制度が導入されました。暗号資産等取引情報の報告制度創設にあわせ、金融口座情報においても電子マネー等を報告対象とする見直しが行われます。

マイナンバーカード 情報が誤っていた時

マイナンバーカード 情報が誤っていた時

マイナンバーカード 情報が誤っていた時

マイナンバーカード情報が誤っていたら?

 マイナンバーカードに紐づけされた情報の誤りが次々と見つかっています。万一誤った情報が登録されていると気づいた場合の対処法はどのようにするのでしょうか。

健康保険証情報

 この情報の誤りに気付いた時はフリーダイヤル(0120-95-0178。音声ガイダンスに従い「4-2」に進む)か、加入している医療保険の保険者に問い合わせます。正しく登録されているかを確認する場合は、マイナポータルにログインし、「注目の情報」の「最新健康保険証の情報の確認」を押して「あなたの健康保険証情報」から、登録されている健康保険証情報を確認します。

公金受取口座情報

  マイナポータルにログインし「注目の情報」の「公金受取口座の登録・変更」を押して「公金受取口座の登録状況ページ」にて、登録されている情報を確認します。口座情報に誤りがある場合にはこのページから登録口座の削除を行います。

マイナポイントに関する情報

 

  「マイナポイント」アプリ・サイトのトップ画面から「申込み状況を確認」を押すとマイナポイント申請が正しく登録されているか確認できます。

 申込みをした覚えがない、心当たりのない決済サービスが登録されていた場合は、上記フリーダイヤルで音声ガイダンスに従って「5」に進むか、申し込みをした自治体(手続支援窓口)に問い合わせます

 問い合わせの際は、上記サイト・アプリの「申込状況の確認」から「マイキーID」「申込日時」「決済サービス」「決済サービス ID」の情報が必要になります。

マイナ保険証、会社の保険証はどうなる?

 

   会社を通じて従業員に保険証は渡されますが、 マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば、健康保険証の発送を待たずに利用できますし健保証はカードの中にあることになります。 会社として健康保険関連の入社・退社・扶養に関する手続は引き続き必要になります。 マイナンバーカードの健康保険証登録は本人が行うため、会社としての手続はありません。現在登録をしていない方でもいずれは健保証を得るために登録が必要となるでしょう。 

マイナンバーカード健康保険証に寄せられた質問

マイナンバーカード健康保険証に寄せられた質問

マイナンバーカード健康保険証に寄せられた質問

マイナンバーカードと健保証の一体化

2022 年 10 月デジタル庁よりマイナンバーカードと健康保険証を一体化し、紙やプラスチックの保険証は 2025 年秋をめどに廃止する方針が打ち出されました。

デジタル庁に寄せられた意見や要望で主だった内容を「よくある質問」として公表しています。質問と回答の一部を抜粋します。利用上の不安を払拭するものです。

①マイナンバーカード取得は任意ですか?⇒国民の申請に基づくもので変更ありません。取得しなくても保険診療受診できます。

②マイナンバーカード保険証を使える医療機関が少ない。 ⇒2023 年 4 月以降すべての医療機関・薬局でマイナンバーカード保険証を使えるよう勧めています。

③保険証と一体後、カードを落としたりなくしたりしたら再発行まで使えませんか?⇒紛失などは再発行手続きに現在は受け取りまで 1~2 か月かかっているところを 10日程度で取得できるよう検討中です。

④マイナンバーカードは「人に見せない」、「大切に保管」と言っていたのに持ち歩いてもいいのですか? ⇒持ち歩いて使ってください。落とした場合でもパスワードがわからないと使用できません。IC チップは無理やり読み込みをすると壊れ悪用できないようにしています。

⑤マイナンバーを人に見られても大丈夫ですか? ⇒マイナンバーを使う場面では顔写真で本人確認することになっています。オンライン利用でも電子証明書を利用します。マイナンバーだけ、名前とマイナンバーだけでは情報は引き出せません。

⑥マイナンバーカードを落としたりして税や年金・医療などの情報流出はないのですか? ⇒マイナンバーカードの IC チップの中身は氏名、住所、生年月日、性別、顔写真、電子証明書、住民票コードで、税、年金、医療などの情報は記録されていません。

⑦マイナンバーから紐付けされた個人情報は流出しませんか? ⇒マイナンバーの利用で個人情報を見ることは各々の行政担当職員しかできないようになっています。マイナポータルサイトで行政とのやり取りが記録されるので確認できます。

以上のように国民の心配事には答えていますが、紛失、システム故障、今後個人の情報を統制監視する動き等もないとはいえず皆が必ずしも望んではいない中で不安はつきません。 


令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

 納税環境整備では、主に電子帳簿保存制度の要件緩和と無申告に対する加算税についての改正が行われます。

優良な電子帳簿の範囲明確化

 電子帳簿は、訂正・削除履歴要件、相互関連性要件や検索要件など優良な電子帳簿の要件を満たして記帳、保存する場合、過少申告加算税の5%軽減措置や青色申告特別控除を65万円とする優遇措置を受けられます。この優良な電子帳簿の範囲として、仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳などの帳簿が明示されます。

令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものに適用されます。

 

電子データの保存要件を緩和

(1)検索要件を不要とする対象者の拡大

電子データについて、検索要件の全てが不要とされる保存義務者の範囲は、判定期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下(現行は1,000万円以下)で税務職員の質問検査権に基づく取引記録のダウンロードにより出力書面を提示できるものに緩和されます。

(2)相当な理由あれば保存要件適用を猶予

請求書、領収書などを電子データで授受する場合、これまで2年間の宥恕措置のもと令和5年12月31日まで出力書面による保存が認められていました。しかし、令和6年1月1日以降についても、宥恕措置はなくなるものの、相当の理由があり、かつ、質問検査権に基づく取引記録のダウンロードや出力書面の提示等の求めに応じることができる場合は、保存要件にかかわらず、電子データを保存できることとされます。

上記の改正は、地方税についても同様の措置として、令和6年1月1日以後に行う電子取引の記録について適用されます。

 

無申告には加算税が重くなります

高額の所得を得ていながら無申告、あるいは連年での無申告などへの措置として、無申告加算税の割合が300万円を超える部分は30%(現行15%、50万円を超える部分は20%)に引き上げられます。

また、期限後申告等に係る年度の前年度、前々年度において無申告加算税又は重加算税を課されたことのある場合や賦課決定すべきと認められる場合には、さらに10%を加重する措置が適用されます。地方税の不申告加算金についても同様の取扱いです。

令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税、地方税に適用されます。

 

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

国際課税ではBEPSプロジェクトの合意により、市場国への新たな課税権の配分(第1の柱)とグローバル・ミニマム課税(第2の柱)に即した制度改正が順次、行われます。このうち、令和5年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税が先行します。

 

グローバル・ミニマム課税への対応

 軽課税国に子会社を持つ日本の親会社で、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業が対象となり、子会社の軽課税国の実効税率が15%を下回る場合、最低税率15%に至るまで、その差額が親会社に課税されます(所得合算ルール)。なお、有形固定資産と支払給与の一定割合は、所得合算ルールの計算対象から除外されます。

所得合算ルールの法制化のため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)及び特定基準法人税額に対する地方法人税(仮称)が創設されます。その際、法人税額と地方法人税額の比率が907対93となるよう制度が構築されるとともに、事務手続きを簡素化する措置が導入されます。

令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度(連結財務諸表の作成期間)から適用されます。

 

外国子会社合算税制は適用免除要件を緩和

外国子会社合算税制は、外国子会社を利用した租税回避防止のため、一定の要件を満たす外国子会社が留保した所得相当額を日本の親会社の所得とみなして合算課税する制度です。

外国子会社のうち、ペーパーカンパニーやキャッシュボックスなど日本の税源を侵食するものは、特定外国関係会社として区分され、外国子会社合算課税の対象となりますが、グローバル・ミニマム課税の導入による追加的な事務負担を軽減するため、適用が免除される租税負担割合が27%以上(現行は、30%以上)に引下げされます。

令和6年4月1日以後に開始する事業年度について適用されます。

※「キャッシュボックス」とは、総資産額に対する剰余金の配当、受取利子など受動的所得の金額の合計額の割合が30%を超える外国関係会社をいいます。

 

非居住者カジノ所得の非課税制度の創設

 令和3年度税制改正で令和4年度以降の検討事項とされていたカジノ所得に対する税制について、非居住者の令和9年から令和13年までのカジノ所得には、所得税を課さない措置が創設されます。

 

税務調査 新人調査官と再任用調査官

税務調査 新人調査官と再任用調査官

税務調査 新人調査官と再任用調査官

コロナ以降は調査件数減だが

 令和2年2月頃から感染が広がった新型コロナの影響で、令和元年分の所得税の確定申告期限の延長措置が取られ、本年においても令和3年分の期限延長が認められるなど、税務関係にも大きな影響が出ています。税務署の調査件数も令和2年度以降大きく減少しています。とはいえ、例年9月からは、調査件数が増える季節となります。

 調査に当たっては、原則として、納税者に対し調査の開始日時、場所・調査対象となる税目や対象期間などの事前通知が行われます。税理士事務所では、税務職員録で担当職員の経歴などが確認できます。

新人調査官、再任用調査官への対応

 今回は、新人調査官と再任用調査官の調査対応について考えてみます。

 新人調査官は、研修で得た知識を基に忠実に調査展開を図るあまり、臨機応変に効率的な対応ができない傾向が見受けられます。その結果として、調査の長期化にもつながる心配もあります。業種業態や経理実務に精通しているのは、納税者自身です。

 早期の調査終了のためにも、会社の新人社員に接するように指導、アドバイスするぐらいの心構えで臨まれるのがよいでしょう。

 再任用調査官(現在、税務職員の定年退職は 60 歳ですが、退職後、継続して最長 65歳まで勤務する職員のこと)は、ベテラン調査官としてこれまでの調査経験も豊富です。現場で納税者から聴取したことや経理、帳簿等の状況確認から判断し、柔軟な対応と効率的な調査が行われると考えていいでしょう。定年後の継続雇用社員に接するような信頼感と経営者としての自信と自覚をもって臨まれるのがよいでしょう。

調査は、納税者の理解と協力の下

 税務署の職員による調査は、任意調査です。調査担当者には、「調査は納税者の理解と協力の下、実施する」ことが求められています。納税者の方々もそのことを理解した上で、調査に対応することが重要です。

 調査に非協力的な言動等行うことは、調査を長期化させることにつながる可能性もあります。仮に指摘事項があったとしても、関与税理士と十分に協議し、それが許容範囲であれば妥協点を見出すことによって、早期に調査を終了させることができると考えます。 

今年の改正税法 所得税・住民税と退職所得

今年の改正税法
所得税・住民税と退職所得

今年の改正税法 所得税・住民税と退職所得

退職所得は合計所得金額を構成するが

令和2年分の所得税の申告から、基礎控除ほか人的控除、給与所得控除、公的年金等控除、青色申告控除などの改正で、10 万円増減や段階的減額や適用除外に伴う所得計算の複雑化が顕著になりました。
合計所得金額の多寡はこの複雑化計算の要素の一つです。そして、所得税に於いては、退職所得はこの合計所得金額の構成要素ですが、住民税での通常の退職所得は、合計所得金額の構成要素ではなく、完全分離課税です。所得税と大きく異なります。

住民税では構成しないとの確認的改正

今年の住民税の税制改正では、公的年金等控除額の算定の基礎となる「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」には、個人住民税における他の所得控除等と同様に、退職所得を含まない合計所得金額を用いること、と所得税と住民税での公的年金等所得の計算の不統一が明確にされ、令和3年分の所得税申告に係る令和4年分の住民税の公的年金等所得・税額計算から適用となっています。

配偶者等の退職所得情報の共有化

また、関係するのは、納税者本人の退職所得だけでなく、配偶者や扶養親族の受ける退職所得もです。
今年の税制改正では、退職所得を受給する同一生計配偶者と扶養親族の氏名住所等を「扶養控除等申告書」に記載する事とし、その記載を基に、給与支払者は、「給与支払報告書」の摘要欄に「(退)」を付けて移記し、市町村に提出する事とされました。
ここでは、所得税の課税処理を基に住民税の課税処理が完結しています。

本人情報は何故か徹底させない

でも、「確定申告の手引き」には、「一般的に、退職所得に係る所得税等は源泉徴収により課税が済むことになりますので、申告書の提出は不要です。」と書かれています。
住民税の事を無視した記載です。
給与所得と退職所得だけの場合だと、年末調整関係申告書と退職所得受給申告書を提出するだけで手続き完了です。そして、これらの申告書は、宛名こそ税務署長や市町村長になっていますが、それらの機関に提出されることのない書類です。
また、法定調書としての「退職所得の源泉徴収票」は、市区町村にも提出されますが、作成範囲は法人の役員に限定です。
住民税の適正計算には除外すべき退職所得情報は不可欠なのに、なぜか不徹底です。