玉田篤志

今年の改正税法 違法無効規定の迅速な改正

今年の改正税法
違法無効規定の迅速な改正

今年の改正税法 違法無効規定の迅速な改正

違法無効ゆえの国側敗訴

最高裁判所は昨年3月 11 日、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当が行われた場合、変動する資本金等と利益積立金との金額の比例配分計算をする算式を定める政令規定が、法人税法の趣旨に反する結果をもたらす場合があり、その場合には、政令の計算規定は、違法・無効であると、判示しました。資本の分配額の計算の中に益金不算入のはずの利益が混入する結果になる、との指摘でした。

国税当局の速やかな対応

国税庁は、10 月 25 日、違法・無効と判示されていることを受けて、計算規定である当該政令について、配当原資とされた資本剰余金の額を超過してしまうような計算結果をもたらす場合、その超過部分は違法無効なのだから、ゼロとする取扱いになる、と公表しました。さらに、平成4年の税制改正項目として税制改正大綱でその政令規定の改正を表明し、今年改正されて、すでに施行されています。

新政令規定での計算結果

資本金 5000、資本剰余金 1000、利益剰余金 1000、利益の配当 500、資本の配当 500として、これを新政令規定で計算すると、
1000×6000÷7000=857>500 となり、資本の配当額を超過するので、857 は 500 に改められることになります。
資本金 5000、資本剰余金 1000、利益剰余金△1000、資本の配当 500 として、これを新政令規定で計算すると、
500×6000÷5000=600>500 となり、資本の配当額を超過するので、600 は 500 に改められることになります。

資本と利益の混同が震源

利益の資本組入れ、資本による欠損補填、自己株取得など、会計では資本と利益の峻別が甘いのに対し、税務ではこれを厳格に区分して、会計での甘さをカバーし、それを担保するシステムを構築しています。
また一方、税務でも、資本の払戻しという資本取引に対し、平成 13 年に、清算概念を取り入れ、株主拠出資本のみならず利益の清算分配もされているとの取扱いにしました。これがプロラタ計算と言われる比例配分政令計算規定の発生事情です。これは、資本と利益の混同です。
資本・利益に係る会計と税務の差異を相互に拡大し合っていることが、今回の政令規定違法無効の判決を生み出すことになる震源事情と言えそうです。

今年の改正税法 縮減されない住宅ローン控除

今年の改正税法
縮減されない住宅ローン控除

今年の改正税法 縮減されない住宅ローン控除

住宅ローン控除の今年の改正内容

ローン返済の利息の支払額よりも控除額が多い状態、逆ザヤ状態が会計検査院の指摘で問題視されていました。消費税率 10%引上げに伴う措置期間も終了でした。
それらへの対応として、控除率が1%から 0.7%に減少となり、所得要件も 3000 万円以下から 2000 万円以下となり、控除対象年末借入金残高限度額も 4000 万円から2000 万円(新築等で 2023 年末入居までなら 3000 万円)に縮減となり、控除期間 13年も 10 年(新築等で令和5年末入居までなら 13 年)に短縮となりました。
しかし、これらの縮減の例外があります。

非縮減その1 カーボンニュートラル住宅

2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すため、省エネ性能の高い認定住宅の新築等に限り、住宅ローン控除の借入限度額を、令和5年末入居までなら 5000万円(エネルギー消費性能向上住宅については 4500 万円又は 4000 万円)に増額、令和7年末入居までだと 4500 万円(エネルギー消費性能向上住宅については 3500 万円又は 3000 万円)に増額、控除期間も 13 年とされます。

非縮減その 2 コロナ税特法

昨年の住宅ローン控除関係の改正税法は、コロナ税特法で立法されています。そこでは、令和3年9月 30 日までに契約した新築注文住宅、令和3年 11 月 30 日までに契約した分譲住宅・中古住宅の取得と増改築等、これらを令和4年 12 月 31 日までの間に自己の居住の用に供した場合には、縮減前の昨年の制度がそのまま適用になります。

コロナ税特法の規定が措置法で新設

今年の税制改正大綱の中に、合計所得金額 1000 万円以下の者に限り床面積要件を40 ㎡に緩和する、と書かれています。しかし、昨年の税制改正大綱にも、合計所得金額 1000 万円以下の者については床面積 40㎡から 50 ㎡までの住宅も対象とする特例措置を講ずる、と書かれています。
床面積要件の緩和は、既に昨年に措置済みのことなのに、少し変ですね。
これは、昨年は特別にコロナ税特法での措置としたが、今年は通常通りの租税特別措置法での措置として新設立法としたことの意味のようです。ただ、両規定で期間がかぶっているところがあるので、上記の「非縮減その 2」が生じているわけです。

サイバーセキュリティ お助け隊サービスとは

サイバーセキュリティ
お助け隊サービスとは

サイバーセキュリティ お助け隊サービスとは

サイバー攻撃で工場稼働停止等の実害も

今やパソコンやインターネットを仕事で利用するのが当たり前の世の中になりました。そんな中、近年日本では企業を狙ったサイバー犯罪が増加しています。
警視庁は 2021 年のサイバー空間をめぐる脅威の情勢などについてまとめた資料を公表しました。国内におけるランサムウェアによる被害件数は 146 件で、被害を受けた組織の 54%は中小企業です。
2022 年に入ってもトヨタ自動車の仕入先で、サーバーのシステムを暗号化しサーバー内の情報やシステムの身代金を要求する「ランサムウェア」の攻撃を受けて発注・受注システムが停止し、結果的にトヨタ自動車の部品調達が難しくなり、国内すべての工場が停止するという事例がニュースになっています。

中小企業向けサイバーセキュリティ対策

中小企業はその規模ゆえに、サイバー攻撃の予防や対策を行うための人員・情報等にリソースが割けないのが実情です。そんな中小企業向けに、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は「サイバーセキュリティお助け隊サービス」をお勧めしています。
この制度は IPA が認定する、サイバー攻撃への対処として最低限必要な施策を効率的かつ安価、確実に提供する企業のサービスを「サイバーセキュリティお助け隊サービス」として認定し、マークを付与するものです。
主な施策は異常がないか監視する「見守り」、問題が発生した時の「駆けつけ」(リモート支援も含む)、サイバー攻撃で突発的に発生するコストへの「保険」です。

IT 補助金では加点、今後は専門枠も

令和 3 年補正予算の IT 導入補助金事業においては、導入する IT ツールとして「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定していると、補助金の審査について加点が得られるようになっています。
また、経済産業省はコロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」に関連する施策発表の中で、サイバーセキュリティお助け隊サービスについては IT 導入補助金の「セキュリティ対策推進枠」として独立した枠を設けることを公表しています。
この機会にサイバーセキュリティ対策について考えてみてはいかがでしょうか。

会計検査院とは どんな組織なのか

会計検査院とは
どんな組織なのか

会計検査院とは どんな組織なのか

税制改正に会計検査院の指摘対応

令和4年度の税制改正にて、住宅ローン控除の大幅な見直しが行われましたが、発表等を見ると「会計検査院の指摘への対応」という文言があります。
低金利の下、実際の住宅ローン控除の借入金利が令和3年までの住宅ローン控除の控除率である1%を下回っている、と指摘をしたのは会計検査院です。普段聞きなれないこの「会計検査院」はどんな組織なのでしょうか。

会計検査院の仕事

会計検査院の仕事は簡単にいうと「国やその周りの組織の経理・財務を監督する」ことです。また、国の決算を確認するという職責も負っています。
会計検査院という組織は明治 22 年(1889年)、大日本帝国憲法が発布されるとともに、憲法に定められた機関になり、財政監督を行ったのがはじまりです。その後の日本国憲法にも第 90 条にて規定がされています。
ちなみに憲法に「会計検査院」という名称が明示されているため、名称を変えるには憲法改正が必要となります。
簡単に経理や財務の監督といいましたが、その内容は多岐にわたります。例えば ODA(政府開発援助)の検査や、医療費・年金の検査、消費税の検査や入札・契約手続きの検査等です。各項目について徴収不足や不正・誤りがないか、法令や制度に改善点はないか等をチェックし、不適切なものを発見したときには、指摘のみにとどまらず、是正や改善を要求する権限があります。

近年ではコロナ関係の検査も

近年では国の財政に大きくかかわる新型コロナウイルス感染症への対策費や感染症対策等による財務への影響についてなどもレポートしており、一部報道などで話題に上がった陽性者接触確認アプリ「COCOA」の不具合対応について、厚生労働省に対して是正改善の処置を求める内容を公開しています。
国会や裁判所に属さず、内閣からも独立した憲法上の機関として、様々な内容をチェックする会計検査院。「国の税務調査を行う税務署」みたいな印象を持ちますね。

マイナンバーカードを健康保険証として 使うと診察料が高くなる?

マイナンバーカードを健康保険証として
使うと診察料が高くなる?

マイナンバーカードを健康保険証として 使うと診察料が高くなる?

マイナンバーカードで診察料が高くなる?

2021(令和3)年 10 月から、医療機関・薬局でマイナンバーカードの健康保険証としての活用が開始されました。医療機関の2割弱で既に導入されているようです。
マイナンバーカードを健康保険証として利用すると診療報酬が加算され、診察料や調剤料が高くなることをご存じですか?
2022(令和4)年の診療報酬改定に「電子的保険医療情報活用加算」が新設され、医療機関や調剤薬局で、マイナンバーカードを使って顔認証付きカードリーダーで資格確認を行った患者は、自己負担3割の場合で、初診 21 円、再診 12 円、調剤9円の新たな負担が生じることになりました。

マイナンバー加算の見直しの動き

マイナンバーカードの利用により診療報酬が加算されることについて、「マイナンバーカード利用で診察料が高くなるのはおかしい」、「従来の保険証を提示した方が安くなるなら、マイナンバーカードは使わない」といった不満の声が出ていました。
当該加算は、カードリーダーなどのオンライン機器設置を医療機関や調剤薬局に促し、(患者同意が前提で)過去に処方された薬の情報を医療機関で共有するなどの目的での加算でした。
しかし、患者負担が増えるのでは、マイナンバーカードの普及促進と矛盾しているのではないかと思います。
政府はマイナンバーカードの健康保険証利用による診療報酬加算について、廃止を含めた見直しを検討しているようですので、今後の動向が注目されます。

将来的には健康保険証が廃止される?

一方、政府はマイナンバー保険証の普及に向け、従来の保険証を原則廃止する方向で検討に入ったようです。
マイナンバーカードの保険証活用導入前から、健康保険証の廃止は検討されていましたが、国民健康保険(各自治体)、健康保険組合、協会けんぽなど保険者が多数存在しますので、完全廃止までには相当時間が掛かるものと思われます。

今更ですが残業手当の 計算方法について

今更ですが残業手当の
計算方法について

今更ですが残業手当の 計算方法について

勘違いしやすい残業計算のポイント

時間外労働や休日労働をさせた場合に原則的にいわゆる割増賃金(残業代)を支払うことになりますが、その計算方法において正しく理解しているとは限らず勘違いして計算しているケースがあります。

割増賃金の算出時に除外できる賃金

給与の時給単価を計算する際には基本給と各種手当も対象です。しかし労働と直接的な関係が薄く個人的事情に基づいて支給されるもので、対象から除外できる賃金があります。
ア、家族手当、イ、通勤手当、ウ、別居手当、エ、子女教育手当、オ、住宅手当、カ、1 か月を超える期間ごとに支払われる賃金、このうち家族手当と通勤手当、住宅手当は、名称が同じであっても一律支給等である場合等は除外できません。
他によくある間違いは、皆勤手当や管理職手当も含めて計算しなければならない点です。管理職手当が割増賃金を含んでいるならば給与規定や雇用契約書に時間外労働の対価であることが明記され何時間相当分かその時間を上回ったら差額を支払うこととなっているかなどの条件があります。このような条件を満たしてない場合は除外されません。また、管理職手当全額が残業代の時は本来の職責部分の扱いはなく、定額残業代と同じ性格を持つと言えるでしょう。

時間外労働の時間数の集計方法

1 日の労働時間は 1 分単位で計算します。
1 日単位の切り捨ては認められていません。
1 か月を集計し切り捨てる場合は労働時間を通算して 30 分未満の端数が出た時は切り捨て、30 分以上の端数は 1 時間に繰り上げすることは認められています。割増金額に 1 円未満の端数が生じた場合や 1 か月間の割増賃金に 1 円未満の端数が生じた時は「50 銭未満は切り捨て、それ以上は切り上げ」ることができます。

1 時間当たりの単価の算出方法

月給制の方の算出方法は、月給÷1 年間における 1 か月平均所定労働時間=時給単価が出ます。
1 か月の所定労働時間の算出は 365 日から年間所定休日を除いて年間所定労働日数を出し、その年間労働日数に 1 日の所定労働時間を乗じて 12 で割ると 1 か月の平均所定労働時間が算出されます。

採用、オンライン面接の チェックポイント

採用、オンライン面接の
チェックポイント

採用、オンライン面接の チェックポイント

コロナ禍で進んだ採用のオンライン化

企業の採用活動のオンライン化が進んでいます。求人の情報会社パーソルキャリアの調査によると「WEB 面接実態調査」で 2021年 7 月に行った求人案件で「WEB 面接可」の求人案件は 63.8%であり、2020 年 8 月の38.4%から 1.7 倍に増えています。
WEB 面接は「感染防止」「交通費がかからない」「日程調整しやすい」「大勢を集めやすい」等メリットがある一方で「雰囲気が伝わらない」「思っていた感じと違う」など問題点もあります。このような事態にならないために WEB では応募者のどこを見るとよいのでしょうか。

WEB 面接のチェックポイント

全体を通してチェックするところ
①ログイン時間は時間通り又は少し早めにログインをして準備しているか
②服装は清潔感のあるものか、T シャツなどカジュアル過ぎることはないか
③姿勢は背筋を伸ばし、臨んでいるか
④洗濯物など面接にふさわしくないものが写っていないか、バーチャル背景であるなら面接にふさわしいものか
⑤最初に面談したとき、うつむく、黙ったまま、相手任せのコミュニケ―ションになっていないか、きちんと挨拶をしたか等

面接中のチェック 7 つのポイント

①表情
適度な緊張感があるか、笑顔など相手とコミュニケーションをとる姿勢はあるか
②言葉使い
丁寧な言葉で相手に伝えることができているか
③論理的思考力
物事を順序だてて説明することができるか
数値や経験をもとに説明ができるか
④根底にある価値観
面接官は「なぜ」を 5 回繰り返し深掘り質問で聞き出すのがポイントです。面接でよく聞かれること以外を質問し相手の本質を見ます。
⑤会社のビジョンや理念への共感・理解 ビジョンをリサーチしているか、どうとらえているか、何を成し遂げたいのかを聞き将来の展望を引き出します。
⑦本人のとらえる自分の強み・弱み(最後に聞く)、特に最後の質問は前の会話との整合性や一貫性など自分を客観的に見た姿なども見えてきます。

換価分割の課税

換価分割の課税

換価分割の課税

実家の土地を相続したものの、相続人には持ち家がある場合、たとえ家族の思い出が詰まった懐かしい家であっても、取り壊して売却せざるを得なくなることがあります。このようなとき、土地の売却代金を相続人の間で分ける換価分割が行われます。

相続税と譲渡所得税

相続開始の後に売却するのであれば、相続税評価額(路線価や倍率評価)で相続税を計算し、譲渡所得税は、被相続人の取得価額と売却価額をもとに計算します。相続税と譲渡所得税が課税されますが、相続税は遺産の取得に対して課税されるのに対し、譲渡所得税は、被相続人の取得時から蓄積されたキャピタルゲインの実現に対する課税ですので、それぞれ異なり、二重課税とは考えられていません。
また、譲渡所得の計算では、先に課税された相続税のうち、土地の価額に対応する部分は、取得費に加算され、その分、譲渡所得税の負担は少なくなります。
なお、相続開始前に、土地の売買契約が締結されていたときは、売却価額で相続税が課されることがあるので注意しましょう。

分割協議が未了のときは

申告期限までに遺産分割協議が調ったときは、相続税も譲渡所得税も遺産分割の割合で按分しますが、分割協議が調わないときは、どちらも法定相続分で計算されます。
相続税の申告期限後に遺産分割協議が調った場合は、修正申告または更正の請求により相続人の間で相続税の負担を精算することができます。しかし、譲渡所得税については、申告期限後に分割協議が調ったとしても遺産分割の割合で修正申告や更正の請求をすることはできず、法定相続分での申告のままとなります。税務署からすれば一度、納税が行われているので申告期限後の分割の変更は、相続人の間で精算してくださいという考え方のようです。

隠れた債務が見つかったときは

相続は実家の土地・建物だけと思っていたら、実は、親が生前、親族から金銭の支援を受けていたことがわかることがあります。
このようなときは、親族間の争いでもある場合を除き、売却代金の一部を債務の返済に充当することになります。親族から親が金銭支援を受けた当時の事情を聞いて納得できる場合、これまでの親族の支援に感謝して親の債務を引き継ぎ、債権債務関係を清算することで相続手続きは終わります。

租税法律主義と租税公平主義

租税法律主義と租税公平主義

租税法律主義と租税公平主義

憲法は、国民に法律の定めのない課税はされないこと(租税法律主義)、租税は同様の状況の下で一人一人、同様に取り扱われること(租税公平主義、平等原則)を定めていますが、被相続人が取得した不動産の評価を路線価ではなく、鑑定評価額とした課税処分を巡り、租税公平主義の解釈が争われた裁判で国の勝訴が確定しました。

相続税法の時価を巡る解釈の違い

課税庁は、不動産の鑑定評価額が路線価と比べ、約4倍のかい離があること、取得資金を借入金でまかない、結果、相続税の課税価格を基礎控除の範囲に収め、相続税をゼロとしたことから、鑑定評価額による更正処分を行いました。
納税者は、この処分に対し、路線価は相続税法に定める時価として通達で公表されており、鑑定評価額による評価では租税の法的安定性が失われ、課税上の予測可能性がなくなること、同様の不動産を有して路線価が適用される他の納税者と比べ、公平な取扱いではなくなる旨を主張しました。

通達は法律ではないが拠り所となる現実も

ところで通達は、税務署内部の行政執行の内容を下達したもので法律ではありません。しかし、通達は納税者に公知され、課税上の拠り所として、通達の評価に従った申告が行われる現実もあります。

実質的な租税負担の公平

最高裁は、通達に従う画一的な評価は公知の事実であり、課税庁が特定の者の財産についてのみ通達に定める評価額を上回る価額で評価することは、合理的な理由がない限り平等原則に違反するとしました。
その上で銀行から借り入れ、不動産を購入して相続税負担の軽減を意図した行為は、購入や借入をしない又はできない他の納税者との間で看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反している。合理的理由があるので鑑定評価額による評価は平等原則に違反しないと判示しました。

租税法律主義と租税公平主義の再考

路線価による評価方法を通達で公開しているにもかかわらず、課税庁が異なる評価を行うのであれば、納税者は安心して経済取引ができなくなります。裁判所の判示した実質的な租税負担の公平と路線価による画一的な評価による公平を使い分けすることは誰にとっての公平か、課税実務を分かりにくくしてしまいます。租税回避の防止が目的であれば、課税上の取扱いを明らかにする法整備が必要ではないでしょうか。

納税地の異動届出書の変遷

納税地の異動届出書の変遷

納税地の異動届出書の変遷

所得税・消費税(個人分)は提出不要に

令和 4 年度の税制改正で所得税・消費税(個人分)について、転居等により納税地の異動があった場合や、住所地に代えて居所地や事業所等の所在地を納税地とする場合に提出する「納税地の異動又は変更に関する届出書」は、令和5年1月1 日以後の納税地の変更等については提出が不要となります。

異動届の今までの変遷

平成 29 年の改正前には「異動する前の税務署と、異動した後の税務署の両方に提出が必要」となっていた異動届ですが、平成29 年改正で「異動前の税務署に提出のみで良い」となり、今回の改正で提出が不要となります。

今までの「振替納税依頼」の変遷

異動届を提出する際に注意すべきポイントの 1 つは「振替納税依頼」です。
令和 2 年 12 月以前は「異動した後の税務署に再提出」する必要がありました。令和 3年 1 月以後は「納税地の異動又は変更に関する届出書」に「振替納税に関する事項」という項目が新設され、「振替納税を引き続き希望する」の「はい」を選択すれば、異動の手続きと併せて振替納税もセットで継続できる仕組みができました。
また、令和3年1 月以後は振替依頼書及びダイレクト納付利用届出書が e-Tax で提出可能になったため、入力画面に沿って必要事項を入力することによって、オンラインで振替依頼書が提出できるようになりました。振替依頼書の認証は金融機関の外部サイトにより利用者認証を行うため、電子送信時に電子署名や電子証明書の添付や印刷して捺印・郵送等が不要なのも便利なポイントです。

令和 5 年からの振替納税の異動手続きは?

今回の異動届の改正については振替納税依頼についての言及がないため、現状では異動をした場合、振替納税についても手続きは不要なのか、それとも従来通り書面や電子で異動手続きが必要なのかが不透明な状況です。