玉田篤志

源泉所得税のクレジット カード納付のススメ

源泉所得税のクレジット
カード納付のススメ

源泉所得税のクレジット カード納付のススメ

1 日でも遅れると 10%の不納付加算税

給与などから源泉徴収した所得税等は、原則として、支払った月の翌月 10 日までに国に納めなければなりません。
源泉所得税の納付を一日でも遅れると、原則 10%(税務署指摘前の自主的納付は5%)の不納付加算税という罰金が科されます。年率 10%の延滞利息でなく、一日でも納付すべき税金の 10%が課されるのです。
“国に代わって給与支払者が従業員の給与から天引きして納付しているのに罰金とはけしからん”という気持ちはわかりますが、税法で規定されているので従わなければなりません。

資金繰りの関係で手元資金がいまない場合

たとえば、「翌月 15 日には顧客からの売掛金の入金があるが 10 日までは手元資金がない」といった場合どうすればよいでしょうか?
「ホンの 5 日位だから 5%の不納付加算税なら構わない…」のでしょうか?
過去に不納付の事績があると他で罰則の軽減が適用されなくもなりますので、決して納期限に遅れてはいけません。
こんな時に便利なのが、クレジットカードによる税金納付です。国税(源泉所得税他の国の税金)をクレジットカードで納付することができるようになったのは、2017年 1 月 4 日(水)からです。
クレジットカード払いでは、金融機関や税務署窓口での納付や e-Tax でのインターネットバンキング納税とは違い、納付税額に応じて所定の決済手数料がかかりますが、10%の不納付加算税と比較すると、これを使わない手はありません。

納期の特例利用者は特にご注意を

毎月の源泉所得税等の納期は翌月 10 日ですが、給与の支給人員が常時 10 人未満の源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を、半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます。
一見便利に見える納期の特例制度ですが、半年分まとめるとなるとそれなりの金額となり、資金繰りに与える影響もそれだけ大きくなりかねません。納期限である 7 月 10日や翌年 1 月 20 日に十分な資金繰りの手当てがあれば別ですが、不安がある場合は、早めに、クレジットカード納付も検討してみることをお勧めします。

今年の改正税法 完全子法人株式配当の源泉税

今年の改正税法
完全子法人株式配当の源泉税

今年の改正税法 完全子法人株式配当の源泉税

会計検査院は税制改正を促す為に検査

会計検査院の指摘があったので、税制改正をしました、という事例が増えています。
会計検査院は、平成 29 年度から令和元年度に完全子法人株式等又は関連法人株式等を保有している 1667 社を検査対象法人とし、そのうち、完全子法人株式等又は関連法人株式等に係る受取配当等に対する源泉所得税相当額について所得税額控除を適用したことにより還付金が生じた法人が 1262社あり、それらに支払われた還付金が約8898 億 6092 万円となっており、うち還付加算金が生じていた法人は延べ 888 法人で、その額は 3 億 6563 万円、さらに、うち 423社は、源泉徴収した全額が課税対象外の配当金に係るものだった、と記していました。

制度の趣旨に沿ってない逸脱規定

また、完全子法人株式等に係る配当に源泉徴収をしていたことから、企業側に一時的な資金負担をさせた上で、税務署側に於いて源泉所得税の徴収の事務、還付の事務が生じ、その上、還付加算金の事務と実の国庫負担が生じており、これらは、税の効率的かつ確実な徴収の制度趣旨に沿ったものとは言えず、むしろ逸脱ではないかとのニュアンスの指摘をしました。

国税は素直に対処するが問題アリと

会計検査院の指摘は、令和2年 11 月 10日に内閣に送付された「令和元年度決算検査報告」においてなされており、財務省は、令和4年度の税制改正でこれに応じ、完全子法人株式等と3分の1超所有の株式等とに係る配当について所得税課税対象外とし、その支払いをする法人の源泉徴収事務も不要としました。
ただし、令和4年度の改正だけでは、税収減少になるので次の税制改正で対応策を打出す、としています。

税収減対策にどう対処するのか

確かに、この件の令和4年度の改正は、所得税法での改正のみで、法人税法での改正はなされていません。特に、M&Aで、新たに子会社になった場合などでは、源泉所得税額控除の月割計算により不完全還付になる場合がありますので、その分は確かに税収減に繋がります。
財務省には、税収減対策の秘策がありそうです。それは従来制度の原理的変更を伴う大がかりなものなのかもしれません。

今年の改正税法 相続登記義務化と登録免許税

今年の改正税法
相続登記義務化と登録免許税

今年の改正税法 相続登記義務化と登録免許税

不動産登記法の改正で相続登記義務化

令和6年4月1日以降になると、不動産登記法の改正(令和3年4月 28 日公布)により、相続や遺贈により不動産を取得した相続人にとって、相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられることになりました。相続登記の義務化は、施行日前に相続の開始があったものについても、遡って適用されます。義務違反は 10 万円以下の過料の対象です。

「相続人申告登記」の新設

3年以内に遺産分割が成立しない場合には、相続人が、登記官に対して、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らが相続人である旨を、相続登記の申請義務履行期間内(3年以内)に各人が申し出ることで、相続登記の申請義務は履行したものとみなされ、申し出を受けた登記官は職権登記を行います。これを「相続人申告登記」と言い、この場合の登録免許税は、職権登記の非課税の規定の適用と措置されます。
ただし、この相続人申告登記では、持分割合の記載はなく、仮の報告を記載したものとの扱いなので、所有権主張の根拠にはなりません。また、遺産分割成立から3年以内に遺産分割の内容を踏まえた所有権移転登記の申請をすることも義務とされました。

今年の登録免許税法の改正

なお、次の非課税措置も見直されています。
①相続により土地の所有権を取得した個人が相続登記をする前に死亡したときの当該死亡者を当該土地の所有権の登記名義人とするためにする登記の登録免許税(これは適用期限延長の見直し)
②不動産の価額が 100 万円以下の土地であるときの相続による所有権移転登記又は表題部所有者の相続人が受ける所有権保存登記についての登録免許税(この見直しは令和4年4月1日以後の登記から適用)

所有者不明土地関連はこれから

なお、来年以降に施行とされている所有者不明土地関連の民法・不動産登記法・相続土地国庫帰属法の改正・創設に伴う新たな税制が、来年以降、目白押しで現れて来ると思われます。

男性の育休、取得のハードル

男性の育休、取得のハードル

男性の育休、取得のハードル

男性の育休取得を促す改正

男性も子育てのための休みを取りやすくする改正育児・介護休業法が創設されました。
男性も子供の出生後 8 週間以内に 4 週間迄 2 回に分けて「産休」を取得でき、企業には対象社員に取得を働きかけるような義務付けがあります(2022 年秋施行予定)。
この流れは拡大することはあっても縮小されることはないでしょう。男性だけが長時間働き、女性が家事育児中心というスタイルは少子高齢化で働き手が減る中、女性の労働力が重要であり男女ともに働けるライフスタイルに変化していくでしょう。

男性の育休を阻むもの

日本の男性の育休取得が進まないのは、制度があっても職場の慣習から取得にためらう人が多いということです。法改正をしても取得を進める上で根本的な問題は別のところにあります。マイボイスコムの調査では「休業中の給与の 100%補償」(54.8%)、「育児休業取得に否定的な上司や同僚の意識改革」(41.2%)、「育休取得がキャリアに不利にならないという安心感」(40.1%)とする回答が多くありました。男性自身、職場の無理解が取得の壁と感じていることが浮かび上がりました。

男女ともに子育てしやすい環境に

日本は先進国の中でも男性の家事・育児参加が少なく少子化の要因とも指摘されています。今回の改正で出生直後に女性の身体的・精神的負担を軽減できる意義は大きいと言えるでしょう。継続的な男性の育児参加が女性に偏りがちな子育てを分担することで女性の就労継続ともなるでしょう。
一方で企業の労務管理などは複雑になる面もあります。企業も労働時間だけでなく中身で評価したり、キャリアアップのルートが複数あったり働く時間や場所を柔軟にしたりと対応が必要な時代となるでしょう。
今、コロナウィルス危機で世界的に出生率は急減しており各国の成長に陰りが見えます。出生率の低下が将来の労働力減少で経済成長力を押し下げるため欧米や中国・韓国等でも育児支援に力を入れています。
日本ではようやく「子ども庁」創設論が出てきたところです。

キャンペーン報奨でギフト券を もらった時の事業者等の課税関係

キャンペーン報奨でギフト券を
もらった時の事業者等の課税関係

キャンペーン報奨でギフト券を もらった時の事業者等の課税関係

キャンペーン報償でのギフト券の所得課税

保険代理店業を行っている事業者が、保険会社の推進強化月間のキャンペーンで一定の成績を上げ、報償としてギフト券をもらいました。この場合の課税関係はどうなるのでしょうか?
事業者といっても、法人の場合と個人事業の場合の2つの形態があります。
法人=会社の場合は、「無償による資産の譲受け」としてその事業年度の収益の額となります(=雑収入計上します)。
個人事業者の場合も、事業を行ったことで得られたものですので、「事業に係る総収入金額」として課税対象となります。
いずれにしても、ギフト券の価値相当分は所得課税の対象となります。

消費税の扱いはどうなる?

では、その事業者が消費税の課税事業者であった場合には、ギフト券に係る消費税の課税問題も発生するのでしょうか?
消費税法では、キャンペーン報償のギフト券の取得は、「無償であって対価を得て行う取引ではありません」ので、もらった時には不課税扱いとなります。ただし、そのギフト券で事業に必要な物品等を購入した場合は、課税仕入れとして消費税の取扱いが発生することとなります。

報償の対象者が個々の役員や社員の場合

また、もしも、こうしたキャンペーンでの報償対象者がそれぞれの事業者に属する従業員や役員・社員であった場合には、少し課税関係が変わってきます。
所得税基本通達では、「役員又は使用人が自己の職務に関連して使用者の取引先等からの贈与等により取得する金品に係る所得は、雑所得に該当する」としています。
雑所得となった場合、サラリーマンや OLで年末調整を受けている人は、20 万円以下ならば確定申告をしなくてもよいとされています(ただし、勤務先からの年間給与収入が 2,000 万円以下の人に限ります)。
なお、上記の場合であっても、医療費控除やふるさと納税で確定申告をする場合には、雑所得として申告が必要となりますので、その分の計上を忘れないようにしなければなりません。

4 つの利益の違いは?

4 つの利益の違いは?

4 つの利益の違いは?

すべて「利益」だけれど数字は違う

決算書などで用いられる「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「純利益」ですが、この 4 つの利益の意味を正確に説明できますか? 会社の状態を読み解く上で重要なポイントでもあるので、この機会におさらいしてみましょう。

売上総利益は、売上から売上原価を引いたいわゆる「粗利=付加価値」です。しかし製造業の場合、売上原価に製造原価が含まれるため正確な「粗利=付加価値」とは言えませんが、この売上総利益率がわかっていると、本業に係る1か月の販売費や一般管理費は概ね一定ですから、売上げがわかれば「売上×売上総利益率-販売費・一般管理費」の算式で1か月の営業利益が概算つかめます。

営業利益は、企業が本業で稼いだ利益です。売上高から、売上原価や販売費及び一般管理費を差し引いた額です。

経常利益は、企業が事業全体から経常的に得た利益です。本業以外の財務活動などによる収益と費用も反映させますから、例えば借入金が多く利息の支払いの負担が大きい場合は、営業利益に比べると経常利益は小さくなります。

純利益は、経常利益から通常の企業活動には含まれない例外的な「特別収益」や「特別損失」を含めて計算されます。また、税金の控除前を「税引前純利益」、税金の控除後を「税引後純利益」と呼び、企業のすべての収益から、すべての費用・損失を差し引いて算出される利益となるため、最終的に「繰越利益剰余金」として資本となる利益です。

利益を比較して会社の状態を把握

純利益が最終的に企業に残る利益のため、一番重要なのは純利益に見えますが、特別収益や特別損失といった、継続的な事業には関係のない例外的な損益が加味されているため、企業の経常的な業績を判断する指標としてはふさわしくありません。
経常利益は、会社の資産運用益や借入金の利息なども加味されることになるため、事業全体に関する数字を見ることができ、会社の正常な収益力がどのくらいなのかを判断するのにふさわしい数字となります。

採用において 紹介予定派遣の活用

採用において
紹介予定派遣の活用

採用において 紹介予定派遣の活用

求人状況が改善、求人媒体の動向

アフターコロナで求人が増えて来ると、再び人材不足になることが予想されます。
「マイナビ中途採用状況 2021」では企業が求人に利用したサービスは転職サイト、職業安定所、次いで人材紹介会社 54.5%であり、実際効果があったとしたのは転職サイトに次いで人材紹介会社が 2 位 40.5%となっています。人材紹介会社の利用者が増える傾向にありますが、職業紹介サービス等は「料金が高い等」の不安が 82.9%と高く、経済的な負担が指摘されています。
以上のような状況下で紹介予定派遣の活用が注目されています。

紹介予定派遣とは?

労働者派遣のうち派遣元が派遣先に対して職業紹介を行いまた予定するものを言い、職業紹介によって派遣労働者が派遣先に雇用されることを派遣終了前に約束されることを含むとされています。
紹介予定派遣を行う期間は同一の労働者について最長 6 か月以内とされていて、雇用主が設定する試用期間に似ています。事実上は派遣労働者の働きぶりや資質などから自社が採用する人物を見極める期間として機能していると言えます。
紹介予定派遣は労働者派遣で禁止されている事前面接や履歴書の送付などの派遣労働者を特定することが可能とされています。
派遣先はミスマッチを防ぐためにも詳しい求人条件を明らかにするようにしたいものです。
派遣元も派遣労働者の直接雇用の紹介手数料でビジネスモデルを築くことができ、労働者も正社員雇用を望む人は 42.4%ということから紹介予定派遣で転職に伴うリスクを減らし正社員を目指す期間とされます。

助成金の活用

紹介予定派遣ではキャリアアップ助成金と人材開発支援助成金が利用できます。有期雇用労働者の正社員化等と派遣先と派遣元が共同で職業訓練実施計画を作成し OJT、Off-JT の組み合わせで訓練を実施し助成されるものです。
職業紹介の手数料は普通年収の 30~40%と言われているので、助成金を利用するとそれくらいの額を受けられる可能性があります。

法人実効税率とは

法人実効税率とは

法人実効税率とは

与党税制調査会で法人実効税率の引上げが検討されている旨の報道がされました。
国外では法人税の最低税率を 15%としてこれまでの法人税率引下げ競争に歯止めをかけ、財政基盤を強化しようとしています。

所得に課税される税が対象

法人実効税率は、所得に対して課税される税の負担割合。法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税の合計額が課税所得に占める割合を指します。
なお、法人税や地方税は損金になりませんが、事業税は損金になりますので、実効税率の算定で使用する課税所得は、事業税を控除する前の所得に戻したうえで、税金をいくら負担しているかを計算します。

法人税率引下げ競争の終焉

各国は国際間の経済取引において、企業を自国に誘致して課税するため、これまで税率の引下げ競争をしてきました。この結果、法人税収は減り続け、一方で GAFA を始めとする多国籍企業は、本社や工場などの恒久的施設を置かずに事業展開し、所得をタックスヘイブンに集めたため、各国では十分に課税できないことが問題になっていました。このため、OECD では国際的な租税回避に対する課税のあるべき姿を長年にわたり議論し、昨年 10 月にはデジタル課税の導入と合わせ、法人税の最低税率を 15%とすることが決まりました。

資源価格の高騰がもたらす負担増

世界では、経済活動の正常化に合わせて財政の立て直しをはかるため、増税の動きに転じています。しかし、輸入に頼る原油や食糧品などの価格の高騰は、資源の乏しい日本において、コスト上昇分を販売価格に転嫁できるまで企業収益を圧迫することになります。また、法人実効税率の対象とならない消費税、揮発油税などのコストまで含めると、企業の実質的な税負担は更に大きくなってくるのではないでしょうか。

今年の改正税法 所得税・住民税の課税方式統一

今年の改正税法
所得税・住民税の課税方式統一

今年の改正税法 所得税・住民税の課税方式統一

配当金を巡る3つの課税方式

上場株式の配当金が支払われる際には、所得税等が源泉徴収されます。復興特別所得税を除き、税率は、20%(所得税 15%、住民税5%)です。
上場株式の配当金について総合課税を選択すると、配当控除が適用できます。上場株式の配当金について申告分離課税を選択すると、上場株式等の譲渡損失との損益通算や繰越控除の適用を受けることができます。また、申告不要(源泉分離課税)を選択することもできます。

選択の基準

所得税の累進税率から配当控除率(10%)を引いた差引税率が源泉税率(15%)に満たないのは、23%-10%=13%<15%なので、累進税率 23%の適用となる課税所得金額 900 万円以下の場合、所得税での総合課税選択有利の指標となります。
また、住民税は、10%の一律課税なので、配当控除率 2.8%を引いた差引税率は、10%-2.8%=7.2%>5%(特別徴収税率)となり、常に特別徴収税率を超過するので、総合課税の選択は、税負担的に不利です。
それで、所得税では総合課税の選択をし、住民税では、申告不要(源泉分離課税)を選択するのが、有利となります。その上、申告不要の選択で、住民税の合計所得金額が減るので、国民健康保険等の保険料や医療機関における窓口負担額を減らす効果もある、と言われています。

朝令暮改的な今年の改正

昨年の税制改正では、所得税確定申告書の中の記載だけで、所得税と異なる住民税の課税方式選択が完結できるよう、手続の簡素化がなされました。
ところが、このように制度の普及促進をしたばかりなのに、今年の改正では、異なる課税方式選択可能制度を廃止し、所得税と住民税との課税方式を一致させることにしました。この改正は、令和6年度分以後の個人住民税について適用です。
そうすると、令和5年分からの所得税確定申告では、所得税と住民税の両方の税負担合計を計算して、総合課税(配当控除)と申告不要(源泉分離)との選択をすることになります。徴収税率 20%と比較すると、
(23%+10%)-(10%+2.8%)=20.2%
(20%+10%)-(10%+2.8%)=17.2%
となるので、総合課税選択は、累進税率 20%の適用となる課税所得金額 695 万円以下の場合ということになります。

 

今年の改正税法 過年度への遡及適用の珍事例

今年の改正税法
過年度への遡及適用の珍事例

今年の改正税法 過年度への遡及適用の珍事例

遡及適用違憲の訴訟

不動産の譲渡所得を総合課税から分離課税にする改正税法を公布の日より前の年初に遡って適用するとしたことにより、幾つかの遡及立法違憲無効訴訟が起きたのは、2004 年の税制改正でした。2011 年の最高裁判決は、所得税は期間税なのだから、納税義務の確定日としての 12 月 31 日からすれば遡及には当たらない、と言い、適用を4月以降とすることが憚られるほどの緊急の遡及立法の必要性があったと述べて、遡及立法合憲・納税者敗訴としました。

敗訴でも事実上の勝訴効果

しかしその後、その判決内容の納得性の欠如を指摘する多くの判例評釈が書かれ、また、この判決以後に於いては、納税者不利益遡及立法だけでなく、遡及立法一般がほとんど行われなくなりました。
ところが、今年の税制改正では、何年も遡及することを前提にしたものが2件ありました。納税者に不利益をもたらす内容の改正ではないので、係争になる余地はないのですが、極めて珍しいケースと言えそうです。

ソフトバンクスキーム潰しの立法にミス

その一つは、ソフトバンクスキーム潰しと言われた子会社株式簿価減額特例の見直しです。スキームは、外国から買取った子会社に配当をさせて、その子会社の株式評価額を下げ、その後に子会社株式を譲渡して譲渡損を発生させるというものです。それへの対抗策として、評価を下げることになる配当では株式簿価が切下げとなる規定創設で譲渡損発生を防止することにしました。しかし、期中利益の期中配当は、評価減を生まない配当なので、簿価減額処理の対象外であるべきはずだったのに、立法ミスだったのか、そのように制度化されていませんでした。それで、この規定修復がなされ、規定創設時である 2020 年4月1日への遡及適用とされました。

違法無効判決を承けて

もう一つは、最高裁判所の判決(令和3年3月 11 日)が、政令を違法・無効とする内容だったことを承けての見直しです。利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(混合配当)での、みなし配当の額の計算結果が、資本剰余金を超える資本金等の額の支払いになってしまうという異常部分の修正です。この改正は、違法無効部分の除去なので、更正の請求の可能な限りの遡及適用となります。