年: 2022年

インボイス制度 免税事業者の選択と経過措置

インボイス制度 免税事業者の選択と経過措置

パートの社保加入の影響と偉業の対応

免税事業者はインボイスで選択を迫られる

 令和5年10月開始のインボイス制度は、免税事業者の方に選択を迫ります。免税事業者のままでいた場合、今まで認められていた取引相手の仕入税額控除が減ってしまう可能性があるからです。

課税形態によって異なる取引相手への影響

 では、実際どんな取引相手に影響があるのかを見てみましょう。

①自分が免税事業者、相手も免税事業者

 お互い消費税の納税義務が免除されているので、影響はありません。また、取引相手が消費者の場合も、仕入税額控除を行わないため、影響はありません。

②自分が免税事業者、相手が簡易課税制度適用の課税事業者

 簡易課税制度は「みなし仕入れ率」で売上に係る消費税額から控除を行うため、適格請求書を発行していない免税事業者相手でも影響はありません。

③自分が免税事業者、相手が課税事業者

 簡易課税制度でない課税事業者は、令和5年10月以降は適格請求書がなければ、仕入税額控除ができません。ただし、令和5年10月から最初の3年間は免税事業者の請求する消費税額の80%、次の3年間は50%を仕入税額控除可能です。

 つまり、③の場合は経過措置の適用があっても、取引先は今までよりも仕入税額控除額が減り、消費税納税額が増えるため、免税事業者との取引については購入価格の実質的な値上がりが起きてしまうのです。

 

課税事業者になるか、ならないか?

 免税事業者が課税事業者になり、適格請求書発行事業者登録をすれば、課税事業者の取引先との関係は継続しやすいでしょうが、消費税の納税義務が発生するため、現状の売上のままだと利益は減少します。

 逆に免税事業者のままでいると、取引先の仕入税額控除が減るため、関係に影響が出る可能性があります。また、免税事業者が消費税を請求して受け取る権利はあるものの、あえて消費税を含まない請求に変更した場合は、現状より利益は減少します。

 免税事業者の方は、経過期間の80%・50%の仕入税額控除、取引先の状況、取引先との関係値等、様々な要因を加味して、いつから適格請求書発行登録をするのか、はたまたしないのかを決めることになります。価格改定の話をしなければならないケースも出てくるのではないでしょうか。

 

消費税の基本 免税事業者とは?

消費税の基本 免税事業者とは?

消費税の基本 免税事業者とは?

納税が免除される・されない条件

 事業者が国内で課税資産の譲渡等を行う場合、個人、法人を問わず消費税の納税義務者となります。しかし、消費税を計算して申告納付する事務は煩雑であり、税務署にとっても負担がかかるので一定の配慮がされています。次の要件に該当する事業者は、消費税の納税義務が免除されます。

・前々年、前々事業年度(基準期間)の課税売上高が 1000 万円以下

・前年 1 月~6 月、前事業年度開始日から6 か月間(特定期間)の課税売上高(又は給与等支払額)が 1000 万円以下

・個人事業者の開業年度とその翌年

・資本金1000万円未満である新設法人の設立1期目、2期目の事業年度 など

反対に次の場合に課税事業者となります。

・基準期間の課税売上高が 1000 万円超

・特定期間の課税売上高(又は給与等支払額)が 1000 万円超

・資本金 1000 万円以上である新設法人の設立 1 期目、2 期目の事業年度 など

免税事業者も課税事業者になれる

 免税事業者は、仕入れ等にかかった消費税額の控除ができないので、課税売上に係る消費税額よりも、課税仕入れ等に係る消費税が多い場合でも、還付を受けることができません。課税事業者になるためには「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。

 例えば輸出業者の場合、輸出に関して消費税はかからないので、仕入れの消費税額の方が経常的に多いため、課税事業者になって還付を受けた方が有利になるわけです。

インボイスによって対応を迫られる?

 令和 5 年 10 月 1 日から始まるインボイス制度では、今まで可能だった免税事業者への「仕入れで払った消費税」の仕入税額控除ができなくなります。免税事業者自身については今までと変わりはないのですが、免税事業者から仕入れがある課税事業者については、そのままの取引内容では納める消費税が高くなります。

 ただし、経過措置があり、制度実施後 3 年間は免税事業者からの仕入れは消費税相当額の 8 割、その後 3 年間は 5 割を仕入税額控除できることとなっています。

税務調査 新人調査官と再任用調査官

税務調査 新人調査官と再任用調査官

税務調査 新人調査官と再任用調査官

コロナ以降は調査件数減だが

 令和2年2月頃から感染が広がった新型コロナの影響で、令和元年分の所得税の確定申告期限の延長措置が取られ、本年においても令和3年分の期限延長が認められるなど、税務関係にも大きな影響が出ています。税務署の調査件数も令和2年度以降大きく減少しています。とはいえ、例年9月からは、調査件数が増える季節となります。

 調査に当たっては、原則として、納税者に対し調査の開始日時、場所・調査対象となる税目や対象期間などの事前通知が行われます。税理士事務所では、税務職員録で担当職員の経歴などが確認できます。

新人調査官、再任用調査官への対応

 今回は、新人調査官と再任用調査官の調査対応について考えてみます。

 新人調査官は、研修で得た知識を基に忠実に調査展開を図るあまり、臨機応変に効率的な対応ができない傾向が見受けられます。その結果として、調査の長期化にもつながる心配もあります。業種業態や経理実務に精通しているのは、納税者自身です。

 早期の調査終了のためにも、会社の新人社員に接するように指導、アドバイスするぐらいの心構えで臨まれるのがよいでしょう。

 再任用調査官(現在、税務職員の定年退職は 60 歳ですが、退職後、継続して最長 65歳まで勤務する職員のこと)は、ベテラン調査官としてこれまでの調査経験も豊富です。現場で納税者から聴取したことや経理、帳簿等の状況確認から判断し、柔軟な対応と効率的な調査が行われると考えていいでしょう。定年後の継続雇用社員に接するような信頼感と経営者としての自信と自覚をもって臨まれるのがよいでしょう。

調査は、納税者の理解と協力の下

 税務署の職員による調査は、任意調査です。調査担当者には、「調査は納税者の理解と協力の下、実施する」ことが求められています。納税者の方々もそのことを理解した上で、調査に対応することが重要です。

 調査に非協力的な言動等行うことは、調査を長期化させることにつながる可能性もあります。仮に指摘事項があったとしても、関与税理士と十分に協議し、それが許容範囲であれば妥協点を見出すことによって、早期に調査を終了させることができると考えます。 

ふるさと納税 基本的なポイント

ふるさと納税 基本的なポイント

ふるさと納税 基本的なポイント

基本的なポイントをお話しします

  個人の所得・控除によって決まる控除上限金額までの寄附なら、自己負担が 2,000円で返礼品が貰えるふるさと納税制度。令和 3 年度の実績は寄附額約 8,302 億円、寄附件数は約 4,447 万件でした。TVCM やインターネットの広告等で目にすることも多く、すでにふるさと納税をしている方も多いことでしょう。

 ただ「興味はあるけどまだやったことがない」という方もまだまだいらっしゃるはず。そんな方のために、今回は基本的なことをおさらいいたします。

1 回でも良い、上限まで寄附しなくて良い

 ふるさと納税は、定期的な寄附を求めないので気軽に行うことができます。今年 1万円寄附したからといって、来年も同じ自治体に 1 万円寄附しなければならないわけではありません。その時々の「応援したい自治体」へ寄附して良いのです。

 ふるさと納税はその当年の自分の所得や控除によって決まる年間の控除上限金額までの寄附であれば、基本的には自己負担は2,000 円で済む仕組みになっています。控除上限金額の計算は、ポータルサイト等で行えます。ただ、控除上限金額はあくまで「自己負担が 2,000 円で済む上限」のため、それ以下の寄附であれば自己負担は 2,000 円で済みます。後に支払うべき税金が減ることによって戻ってきますが、一時的なキャッシュフローはマイナスになりますし、払った分-2,000 円だけ税金が減る仕組みで直接的な節税ではないため、無理に上限額全額まで使う必要もありません。

 当然、たくさん寄附をすればたくさんお礼の品が貰える分お得ですが、未経験の方で「試しに1つだけやってみよう」という使い方でも問題はありません。

税を引いてもらう手続きが必要

  寄附してそれでおしまい、というわけではなく、確定申告かワンストップ特例申請という手続きをしないと、後に税金を引いてくれません。なお、ワンストップ特例申請は「確定申告をしない方」「5か所以内の自治体への寄附」という利用条件がありますので、ご注意ください。 

インボイス制度 適格請求書等のいらない課税取引

インボイス制度 適格請求書等のいらない課税取引

インボイス制度 適格請求書等のいらない課税取引

消費税の大原則

 消費税の原則は貰った消費税から払った消費税を差し引いて残りを消費税として納付するものです。その計算を適格請求書等で確認するのがインボイス制度ですが、世の中、適格請求書等以前に領収書の貰えない取引や不要とする取引と言うものも多々あります。そこで適格請求書等がなくても課税取引と認めてくれる例を挙げてみましょう。

適格請求書等のいらない取引

① 3 万円未満の公共交通機関による旅客の運送

 要は少額の交通費で今でもいちいち領収書は貰いません。

② 3 万円未満の自動販売機による購入

 今でも領収書はありません。

③ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出したものに限る)

 切手は金銭代替物なので、切手を購入した時は非課税ですが、切手を使って郵便物を出したときは課税取引となります。ポストに投函しても領収書は貰えません。

④ 省略

⑤ 古物営業を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から、古物を棚卸資産として購入する取引。

⑥ 質屋を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から、質物を棚卸資産として取得する取引。

⑦ 宅地建物取引業を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から、建物を棚卸資産として購入する取引

⑧ 適格請求書発行事業者でない者から、再生資源及び再生部品を棚卸資産として購入する取引。

⑨ 従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費等。

出張規定で定められた必要経費としての出張手当のことです。

①②③⑨は消費税を払っているのに適格請求書等(領収書等)がもらえないので理解できますが、⑤⑥⑦⑧は消費税を払わないのに課税取引とするとは、何か政治的な意図を感じます。 


交際費と社内飲食費

交際費と社内飲食費

交際費と社内飲食費

交際費制度はそのまま延長

  令和 4 年度税制改正で、交際費の損金不算入制度および接待飲食費に係る特例については令和 2 年度の改正内容を踏襲し、そのまま 2 年間延長することとなりました。

①支出する交際費等の額のうち接待飲食費(1 人当たり 5,000 円を超える分)の額の 50%相当額は損金算入

②資本金又は出資金の額が1億円以下の中小企業は支出する交際費の額のうち年800 万円までは損金算入

※中小企業はどちらかを選択適用

「①について、資本金の額等が 100 億円を超える法人を除外」も据え置きです。

飲食費は社内・社外で対応が異なる

 資本金 1 億円超の企業であっても、社外への接待飲食費については 1 人当たり5,000 円以下の飲食であれば税務上交際費に含めず、全額を損金にできます。また、自社の役員・従業員・親族に対する接待等のために支出するものは、5,000 円以下であっても交際費に該当します。ただし、社内の「(参加の可否はともかく)社員全員を対象とした忘年会等」の飲食費については、社会通念上妥当な金額であれば、福利厚生費として扱います。

「社内飲食費」なのかが微妙な判定も、国税庁の Q&A で例示されています。親会社の役員や、グループ内の他社の役員等に対する飲食費、同業者同士の懇親会等で支出する自己負担分の飲食費については、「社内飲食費」には該当しません。こういった場合は 1 人当たり 5,000 円以下であれば税務上交際費には該当せず、全額損金算入が可能です。


では、出向者の飲食費はどうなる?

 出向者の場合は、その出向者が出向先法人の立場で飲食等の場に出席したか、出向元法人の立場で出席したかにより、判断することになります。

 例えば、親会社からの出向者が出向先の子会社の役員等を接待する会合に、子会社の役員等の立場で出席しているような場合に支払う飲食代は、「社内飲食費」には該当しません。他方、出向者が親会社の懇親会の席に、あくまで親会社の社員等の立場で出席しているような場合に支払う飲食代は、社内飲食費に該当することとなります。 

保険代理店や保険外交員と インボイス制度

保険代理店や保険外交員と
インボイス制度

保険代理店や保険外交員と インボイス制度

いよいよインボイスが始まります

インボイス制度すなわち適格請求書保存方式の開始は 2023 年の 10 月からですが、適格請求書発行事業者になるための登録申請は既に始まっております。2022 年(今年)の改正で、従来適格事業者申請は 2023 年 3月 31 日までにすることとされていた規定が緩和され、免税事業者に関しては 2029 年9 月 30 日と大幅に延長されました。
改正前では免税事業者も 2023 年 3 月 31日が登録申請期限でしたから、年商 1,000万円以下の免税事業者の間では、取引先との関係で適格請求書発行事業者になるかならないかは、大きな問題でした。

何故大きな問題か?

インボイス制度が始まると、適格請求書発行事業者への支払以外の支払には消費税は掛かっていないこととなります。すなわち従来の免税事業者への支払には消費税は掛かっていないこととなります。消費税は売上等で預かった消費税から経費等で支払った消費税を引いて残りを納税する仕組みです。そこで免税事業者でも取引先との関係で適格請求書発行事業者への登録申請をしないと消費税分値引きするか、ややもすると取引停止となる場合もあるからです。

保険業界は全く無頓着

多くの保険代理店は年商 1,000 万円超ですから必然的に課税事業者ですので、登録申請して適格請求書発行事業者となりますが、中には 1,000 万円以下の保険代理店もあります。また多くの保険外交員は免税事業者です。保険手数料収入の相手は保険会社です。しかし全くと言っていいほど保険会社からの指示はありません。

保険会社は消費税と無関係

保険会社の収入は保険料収入です。保険料収入には消費税が掛かっておりません。
いわゆる非課税売上です。この非課税売上を得るためのコストが代理店手数料であり、外交員報酬です。ですから代理店手数料や外交員報酬に消費税が掛かっていようがいまいが保険会社にとっては一切関係がないからです。

なぜ給与支払者が源泉徴収義務者 で納税しなければならないのか?

なぜ給与支払者が源泉徴収義務者
で納税しなければならないのか?

なぜ給与支払者が源泉徴収義務者 で納税しなければならないのか?

源泉徴収は国の仕事の押し付けでないか?

所得税法では、給与の支払者が給与支払時に源泉所得税を天引きし、翌月 10 日までに国に納付しなければならないと規定されています。“これって国のやるべき仕事を給与支払者に押し付けているのでは?”と疑問に思ったことはありませんか?
源泉徴収制度は事前に税収を確保できる国にとって便利な制度です。滞納の未然防止や納税の簡易化、納税者の捕捉などにも資するものです。とはいえ、給与支払者にとっては手間も時間もかかる余計な仕事である上に、申告や納税が遅れるとペナルティ(=不納付加算税など)も大きい嫌な制度です。

手間の掛かる源泉徴収義務は憲法違反か?

給与支払者に源泉徴収義務を課すのは憲法違反だとする源泉徴収制度の合憲性が争われた事件がありました。原告側の主張は、源泉徴収制度は憲法 14 条 1 項(法の下の平等)、18 条(その意に反する苦役に服させられない)、29 条 1 項 3 項(財産権の侵害)に違反すると訴えたのです。
しかしながら、昭和 37 年 2 月 28 日の最高裁の判決で、「給与所得者に対する所得税の源泉徴収制度は、これによって国は税収を確保し、徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても、申告、納付等に関する煩雑な事務から免がれることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月 10 日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところは全くなしとはいえない。」として訴えは退けられました。

現行の源泉徴収制度は三方よしの手法

最高裁の棄却理由として、①国の簡便手続での税収確保、②従業員は確定申告不要となる、③給与支払者の資金的利便の 3 つを理由としました。
そして、「されば源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない。」として、合憲としました。
以後に争われた源泉徴収制度の合憲性事件でも、この昭和 37 年最高裁判決が引用されて今日に至っています。

結婚・子育て資金贈与の非課税

結婚・子育て資金贈与の非課税

結婚・子育て資金贈与の非課税

制度概要

結婚子育て資金の一括贈与制度は、直系尊属である父母、祖父母から子・孫に結婚・出産・育児の費用を非課税で贈与できる租税特別措置法の制度です。20 歳以上 50 歳未満の受贈者を対象に最大で 1000 万円(結婚費用は最大 300 万円)までの贈与が非課税になります。非課税の対象となる費目については、内閣府 HP に掲載されています。
平成 31 年改正で受贈者は、前年分の合計所得金額が 1000 万円以下に制限されました。令和3年度は次の改正があり、令和5年3月 31 日まで2年間、延長されました。

贈与者死亡時、孫への贈与は2割加算に

贈与者が死亡した日までの贈与額(非課税拠出額)のうち、結婚・出産・育児に使用した金額(結婚・子育て資金支出額)を控除した未使用分(管理残額)は相続税の課税対象となっていましたが、新たに令和3年4月1日以降の孫への贈与は、配偶者および一親等の血族以外(代襲相続人である孫・孫養子を除く)への贈与に適用される、相続税額の2割加算の対象となりました。世代間の資産移転を促進する非課税贈与として創設された制度は、相続税法の取扱いがさらに適用され、利用しにくくなりました。

認可外保育施設も非課税の対象になります

非課税の対象となる育児費用の範囲に、新たに1日当たり5人以下の乳幼児を保育する認可外保育施設のうち、都道府県知事などから認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書を交付された施設に対する保育料の贈与も対象となりました。証明書を交付された施設のリストを HP で公開している自治体もあります。

非課税申告書は電子提出も可

この制度の適用を受けるため、取扱金融機関を経由して提出する非課税申告書は、令和3年4月1日より、電磁的方法によっても提出できるようになっています。

今年の改正税法 所得税・住民税と退職所得

今年の改正税法
所得税・住民税と退職所得

今年の改正税法 所得税・住民税と退職所得

退職所得は合計所得金額を構成するが

令和2年分の所得税の申告から、基礎控除ほか人的控除、給与所得控除、公的年金等控除、青色申告控除などの改正で、10 万円増減や段階的減額や適用除外に伴う所得計算の複雑化が顕著になりました。
合計所得金額の多寡はこの複雑化計算の要素の一つです。そして、所得税に於いては、退職所得はこの合計所得金額の構成要素ですが、住民税での通常の退職所得は、合計所得金額の構成要素ではなく、完全分離課税です。所得税と大きく異なります。

住民税では構成しないとの確認的改正

今年の住民税の税制改正では、公的年金等控除額の算定の基礎となる「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」には、個人住民税における他の所得控除等と同様に、退職所得を含まない合計所得金額を用いること、と所得税と住民税での公的年金等所得の計算の不統一が明確にされ、令和3年分の所得税申告に係る令和4年分の住民税の公的年金等所得・税額計算から適用となっています。

配偶者等の退職所得情報の共有化

また、関係するのは、納税者本人の退職所得だけでなく、配偶者や扶養親族の受ける退職所得もです。
今年の税制改正では、退職所得を受給する同一生計配偶者と扶養親族の氏名住所等を「扶養控除等申告書」に記載する事とし、その記載を基に、給与支払者は、「給与支払報告書」の摘要欄に「(退)」を付けて移記し、市町村に提出する事とされました。
ここでは、所得税の課税処理を基に住民税の課税処理が完結しています。

本人情報は何故か徹底させない

でも、「確定申告の手引き」には、「一般的に、退職所得に係る所得税等は源泉徴収により課税が済むことになりますので、申告書の提出は不要です。」と書かれています。
住民税の事を無視した記載です。
給与所得と退職所得だけの場合だと、年末調整関係申告書と退職所得受給申告書を提出するだけで手続き完了です。そして、これらの申告書は、宛名こそ税務署長や市町村長になっていますが、それらの機関に提出されることのない書類です。
また、法定調書としての「退職所得の源泉徴収票」は、市区町村にも提出されますが、作成範囲は法人の役員に限定です。
住民税の適正計算には除外すべき退職所得情報は不可欠なのに、なぜか不徹底です。