月: 2021年12月

嫁が養子となる事情

嫁が養子となる事情

嫁が養子となる事情

相続税の解説書を読むと、相続人の配偶者が被相続人の養子となっている事例に遭遇することがあります。養子縁組は相続人の数を増やすことにより、遺産に係る基礎控除額が増えるなど相続税対策として有用となりますが、配偶者を養子縁組する現実には、もっと切実で厳しい背景があります。

夫が親より先に死亡するリスク

たとえば夫が財産を持たずに高齢の親より先に死亡した場合、夫の配偶者にとっては将来、親の2次相続で親の財産が代襲相続人となる子供に移転してしまい、配偶者には引き継がれません。子供が将来、生活の面倒を見てくれるのであれば特段の問題は生じませんが、子供世帯の事情によっては自宅を売却することとなり、配偶者は家もなく財産もなく窮地に陥るリスクを負ってしまうことにもなりかねません。

嫁を守る養子縁組

夫の両親と同居している場合、自宅建物や敷地は、夫の親の所有となっていることが少なくありません。嫁が夫の両親の介護に努め、財産の維持管理を通じて貢献したにもかかわらず、夫に先立たれた途端、生活の保障がなくなってしまうというのでは、あまりにも可哀そうです。
この場合、夫が嫁をあらかじめ夫の親の養子にしておけば、親の遺産分割の際、相続人として財産分与を受けることができます。自宅や現預金を相続できれば、夫に先立たれたとしても自分の生活する場所と経済力を確保できることになります。

養子の課税上の扱い

民法では、養子は何人でも可能ですが、相続税法では、法定相続人の数に算入される養子の数は、被相続人に実子がある場合は1人まで、実子がない場合は2人までとされ、相続税額計算上のメリットは限定されるので留意が必要です。

夫の親が気持ちを伝える

長年の生活の中で嫁と夫の親との間に信頼関係が醸成されていても、夫が既に死亡している場合は、嫁から夫の親に養子縁組を言い出すのは難しいでしょう。
夫の兄弟も嫁が自分たちの親の面倒を見てくれていることを知ってはいるものの、各個人の置かれている状況によっては養子縁組に反対はしない、とは言い切れません。
とはいえ、夫の親が先に夫の兄弟たちに自分の気持ちを伝えれば、その想いも無碍にはできないのではないでしょうか。

インボイスがもたらす転嫁妨害や黙認

インボイスがもたらす転嫁妨害や黙認

インボイスがもたらす 転嫁妨害や黙認

免税事業者の消費税転嫁の権利

消費税法を素直に読むと、事業を行う者には、取引で受取った消費税を納める義務が課せられており、ただし、年 1000 万円以下の課税売上しかない者については、その消費税の納税義務が免除される、と書かれていることを確認することが出来ます。すなわち、免税事業者といえども、消費税を請求して受取る権利があるのです。
消費税の転嫁拒否を監視する転嫁Gメンの根拠法である消費税転嫁対策特別措置法のガイドラインにおいては、免税事業者であることを理由にした消費税転嫁を制限する買い叩きをしてはならない、とされていました。課税事業者のみならず、免税事業者にも、消費税を転嫁請求する権利があることが、ここでも確認できます。

インボイス制度では

令和5年 10 月1日から、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が新たに始まるわけですが、ここで、事業者の消費税転嫁請求権に変容が起きたわけではありません。変容は、事業者の取引相手に於いてであって、その取引で適格請求書を受領していない限り原理的には仕入税額控除が出来ないことになった、ということにすぎません。
しかし、免税事業者は、インボイス番号を取得することが出来ません。インボイス番号を持たない事業者から受取る請求書等は、適格請求書ではないので、その受取人においては、原理的には仕入税額控除が出来ません。ただし、経過措置として、制度開始後3年間は 80%控除可能、次の3年間は50%控除可能と、されています。

インボイス制度での弱者用新税率

そうすると心配なのは、当初3年間においては、転嫁消費税は8%にしてくれ、次の3年間では、5%にしてくれ、その後は、消費税転嫁は控えて欲しい、という要請が跋扈しそうな気がします。こんな時こそ転嫁Gメンの活躍を期待したいところですが、都合よく消費税転嫁対策特措法は、今年3月 31 日をもって、失効となっています。
消費税法の建付けからは、事業者が課税取引をしたら、その取引額の中の 110 分の10 は消費税のはずなのですが、当局には、この大前提を維持しようとする姿勢はなさそうです。買いたたきに遭いたくなければ、免税事業者も選択課税事業者となりインボイス番号を取得せよ、との姿勢です。

金融所得課税は分配に有効か?

金融所得課税は分配に有効か?

岸田首相は政権公約で「成長と分配の好循環」のため、「金融所得課税の見直し」を選択肢の一つとし、『1億円の壁』の打破を打ち出しましたが、首相就任後、早々に先送りしました。はたして金融所得課税は、分配政策として有効なのでしょうか?

富裕層が優遇される 1 億円の壁とは?

所得が 1 億円を超えると、所得税の負担率が下がります。これは、富裕層で株式や債券など金融商品に投資を振り向ける金額が大きくなり、分離課税 20.315%(所得税15.315%、住民税 5%)の結果、総合課税の累進課税の効果が薄まることによると考えられています。
そこで、所得税の分配機能を高めるため、金融所得課税の税率をあげることにより、富裕層の負担を増やして分配の原資にあてるべきと考えたわけです。

むしろ中間層の課税強化につながる

証券系シンクタンクの 2018 年の調査レポートは、所得1億円を超える納税者は全体の 0.04%に過ぎず、金融所得の税率を引き上げても増税による税収は少なく、むしろ金融商品に投資する中堅以下の所得者層の増税効果の方が大きいと分析しました。
また、税率の引上げは創業意欲を減退させ、投資家がより低い税率の海外に逃避するおそれも指摘されています。これでは従来の「貯蓄から投資へ」の政府方針に反する結果にもなりかねません。

「新しい資本主義実現本部」の立ち上げ

政府は 10 月に「新しい資本主義実現本部」を立ち上げ、成長政策とあわせて賃上げや非正規雇用、看護・介護・保育、子育て支援などの分野で分配政策の検討を開始しました。税制では「新しい資本主義の時代における今後の税制のあり方」を政府税制調査会で検討することが盛り込まれています。

分配政策の社会的意義

産業革命以降、成長と分配はいつも経済政策の主要課題でしたが、この 40 年間、新自由主義は世界中で所得格差と分断を広げました。これに対し、分配の公正と貧困の解消の立場で自然環境、社会的インフラ、教育や医療などの社会的共通資本を、豊かな社会をつくる装置として機能させることを提唱した経済学者もいます。成長と分配はこれからも経済の根源的な課題であるといえます。累進課税や資産課税に所得再分配機能をもたせてきた税制も新たにどのような分配政策を考えられるかが問われます。