月: 2023年1月

令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

令和5年度税制改正大綱 納税環境整備編

 納税環境整備では、主に電子帳簿保存制度の要件緩和と無申告に対する加算税についての改正が行われます。

優良な電子帳簿の範囲明確化

 電子帳簿は、訂正・削除履歴要件、相互関連性要件や検索要件など優良な電子帳簿の要件を満たして記帳、保存する場合、過少申告加算税の5%軽減措置や青色申告特別控除を65万円とする優遇措置を受けられます。この優良な電子帳簿の範囲として、仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳などの帳簿が明示されます。

令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものに適用されます。

 

電子データの保存要件を緩和

(1)検索要件を不要とする対象者の拡大

電子データについて、検索要件の全てが不要とされる保存義務者の範囲は、判定期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下(現行は1,000万円以下)で税務職員の質問検査権に基づく取引記録のダウンロードにより出力書面を提示できるものに緩和されます。

(2)相当な理由あれば保存要件適用を猶予

請求書、領収書などを電子データで授受する場合、これまで2年間の宥恕措置のもと令和5年12月31日まで出力書面による保存が認められていました。しかし、令和6年1月1日以降についても、宥恕措置はなくなるものの、相当の理由があり、かつ、質問検査権に基づく取引記録のダウンロードや出力書面の提示等の求めに応じることができる場合は、保存要件にかかわらず、電子データを保存できることとされます。

上記の改正は、地方税についても同様の措置として、令和6年1月1日以後に行う電子取引の記録について適用されます。

 

無申告には加算税が重くなります

高額の所得を得ていながら無申告、あるいは連年での無申告などへの措置として、無申告加算税の割合が300万円を超える部分は30%(現行15%、50万円を超える部分は20%)に引き上げられます。

また、期限後申告等に係る年度の前年度、前々年度において無申告加算税又は重加算税を課されたことのある場合や賦課決定すべきと認められる場合には、さらに10%を加重する措置が適用されます。地方税の不申告加算金についても同様の取扱いです。

令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税、地方税に適用されます。

 

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

令和5年度税制改正大綱 国際課税編

国際課税ではBEPSプロジェクトの合意により、市場国への新たな課税権の配分(第1の柱)とグローバル・ミニマム課税(第2の柱)に即した制度改正が順次、行われます。このうち、令和5年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税が先行します。

 

グローバル・ミニマム課税への対応

 軽課税国に子会社を持つ日本の親会社で、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業が対象となり、子会社の軽課税国の実効税率が15%を下回る場合、最低税率15%に至るまで、その差額が親会社に課税されます(所得合算ルール)。なお、有形固定資産と支払給与の一定割合は、所得合算ルールの計算対象から除外されます。

所得合算ルールの法制化のため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)及び特定基準法人税額に対する地方法人税(仮称)が創設されます。その際、法人税額と地方法人税額の比率が907対93となるよう制度が構築されるとともに、事務手続きを簡素化する措置が導入されます。

令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度(連結財務諸表の作成期間)から適用されます。

 

外国子会社合算税制は適用免除要件を緩和

外国子会社合算税制は、外国子会社を利用した租税回避防止のため、一定の要件を満たす外国子会社が留保した所得相当額を日本の親会社の所得とみなして合算課税する制度です。

外国子会社のうち、ペーパーカンパニーやキャッシュボックスなど日本の税源を侵食するものは、特定外国関係会社として区分され、外国子会社合算課税の対象となりますが、グローバル・ミニマム課税の導入による追加的な事務負担を軽減するため、適用が免除される租税負担割合が27%以上(現行は、30%以上)に引下げされます。

令和6年4月1日以後に開始する事業年度について適用されます。

※「キャッシュボックス」とは、総資産額に対する剰余金の配当、受取利子など受動的所得の金額の合計額の割合が30%を超える外国関係会社をいいます。

 

非居住者カジノ所得の非課税制度の創設

 令和3年度税制改正で令和4年度以降の検討事項とされていたカジノ所得に対する税制について、非居住者の令和9年から令和13年までのカジノ所得には、所得税を課さない措置が創設されます。

 

令和5年度税制改正大綱 個人所得課税編

令和5年度税制改正大綱 個人所得課税編

令和5年度税制改正大綱 個人所得課税編

個人所得課税では、「資産所得倍増プラン」をもとに、NISA制度やスタートアップ支援制度を中心に見直しが行われます。

NISAは投資枠の拡充と制度を恒久化

新たなNISA制度では、投資枠が「つみたて投資枠」として、年120万円(これまで年40万円)、「成長投資枠」として年240万円(これまで年120万円)、併用を可能にして、合計で年360万円、累計1,800万円(うち成長投資枠の累計は1,200万円)まで大幅に拡充されます。非課税となる保有期間は、無期限とし、制度の恒久化が図られます。令和6年1月から適用されます。

 

スタートアップへの再投資に非課税措置

スタートアップへの資金供給を強化するため、保有株式の譲渡益を元手にして、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップに再投資を行った場合、20億円を上限に株式譲渡益に課税しない制度が創設されます。

また、ストックオプション税制の権利行使期間の上限を15年(現行10年)に延長し、スタートアップの事業を後押しします。

 

高所得者の税負担を適正化

税負担の公平化の観点から、極めて高い水準の所得者に対して、基準所得金額から3.3億円を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額が、基準所得税額を超過する場合には、その超過した差額について追加的に申告納税を求めます。令和7年分以降の所得税から適用されます。

相続空き家の特例は適用要件を改正

相続空き家の特例は、建物譲渡の翌年2月15日までに耐震基準に適合させるか、取壊し等を行えば適用できるようになります。また、建物、敷地の相続人が3人以上の場合、特別控除額は2,000万円とされます。令和6年1月1日からの譲渡に適用されます。

 

特定非常災害損失の繰越控除期間を5年に

特定非常災害により生じた損失について、雑損失や純損失の繰越期間を例外的に5年(現行3年)に延長します。

 
 

令和5年度税制改正大綱 資産課税編

令和5年度税制改正大綱 資産課税編

令和5年度税制改正大綱 資産課税編

資産移転時期の選択に中立的な税制の構築

 被相続人の高齢化に伴い、個人金融資産などの資産が高齢者に偏在するなかで、若年層への資産移転を図るとともに、相続や贈与に伴う税負担の違いが資産移転の時期の選択にできるだけ影響しないようにするため、資産課税の見直しが図られます。

 

相続時精算課税贈与は利用しやすく改正

 相続時精算課税制度では、特別控除額2,500万円とは別に、課税価格から暦年で110万円の基礎控除を受けられるようになります。また、相続財産の価額に加算される相続時精算課税贈与額は、基礎控除後の残額となります。これは、暦年贈与課税と同様に、少額贈与については課税せず、事務負担の軽減をはかるものとなっています。

また、贈与を受けた土地・建物が災害により被害を受けて資産価値が下落した場合、相続税の課税価格に加算される財産の価額は、被害を受けた部分の金額を控除した額となります。いずれも、令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。

 

暦年課税贈与の加算期間は、7年に延長

 暦年課税贈与は、相続開始前7年間(現行は、3年間)に受けたものが、相続税の課税価格に加算されるようになります。この場合、延長された4年間の贈与は、贈与を受けた財産の合計額から100万円を控除できます。令和6年1月1日以後の贈与から適用となります。

 

教育資金、結婚・子育て資金贈与は延長へ

 

 教育資金の一括贈与に係る非課税制度、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税制度は、富裕層に大きな節税メリットがあり、資産格差を固定化させる一方、近年は利用件数が低迷していました。政府税調ではこれらの制度の廃止または縮小の意見も多く出されていましたが、税制改正大綱では、節税的な利用につながらないよう、一部改正の上、教育資金贈与の非課税制度は、適用期限を3年延長、結婚・子育て資金贈与の非課税制度は、2年延長となりました。

 

マンション評価は適正化を検討

 

 この他、閣議決定前に公表された自民党・公明党の税制改正大綱(R4.12.16)では、マンションの財産評価について、マンションの市場価格と財産評価基本通達に基づく相続税評価額との間に大きな乖離が見られることから、納税者の予見可能性を確保するべく、相続税法の時価評価のもと、適正化を検討する方針が示されています。

 

令和5年度税制改正大綱 法人課税編

令和5年度税制改正大綱 法人課税編

令和5年度税制改正大綱 法人課税編

法人課税では、成長と分配の好循環を実現するための制度改正が行われます。

オープンイノベーション促進税制の見直し

 オープンイノベーション促進税制は、スタートアップ等への出資額の25%を課税所得から控除するものです。これまでは発行法人の株式を出資の払込みにより取得する場合に適用が限定されていましたが、M&Aにより発行法人以外の者から取得する場合にも適用できるようになります。発行法人は内国法人であること、取得価額は5億円以上(上限200億円)、取得後に議決権の過半数を有するものが対象です。

 

研究開発税制はインセンティブを強化

研究開発税制では、税額控除率のカーブを見直すほか、一般型では税額控除の上限を試験研究費の増減割合に応じて変動させる(25%→20%~30%)改正が行われます。

 

一般型

増減試験研究費割合A 税額控除率

A>12% 11.5%+(A-12%)×0.375% 上限14%

A≦12% 11.5%-(12%-A)×0.25% 下限1%

 

中小企業技術基盤強化税制

増減試験研究費割合A 税額控除率

A>12% 12%+(A-12%)×0.375% 上限17%

A≦12% 12% -

 

オープンイノベーション型

 特別試験研究費の範囲に、特別新事業開拓事業者との共同研究や委託研究に係る試験研究費や、博士号取得者、10年以上専ら研究業務に従事した役員・使用人に対する人件費が加えられます。

 

学校法人の設立のための寄付金は損金算入

「人ヘの投資」を強化するため、大学、高等専門学校などを設置する学校法人の設立を目的とする法人に支出する寄附金で設立のための費用に充てたものは、指定寄附金として損金の額に算入されます。

外形標準課税のあり方の見直し

 

外形標準課税については、資本金を1億円以下に減資すること等により、課税対象からはずれる法人が増加していることを踏まえ、与党税制改正大綱では、大規模法人を対象に制度の見直しを検討する方針です

 
 

令和5年度税制改正大綱 消費課税編

令和5年度税制改正大綱 消費課税編

令和5年度税制改正大綱 消費課税編

小規模事業者の納税額を2割負担に軽減

 フリーランスなど免税事業者が、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間にインボイス発行事業者となった場合、税額負担を2割に軽減する措置が適用されます。みなし仕入率が80%の簡易課税制度と同じ計算方法となります。特例の選択は、申告時に確定申告書に付記することで行えます。

この特例は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間及び、令和5年10月1日前から課税事業者を選択している事業者には適用されません。

特例の適用を受けたインボイス発行事業者が、適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その提出した課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。

 

インボイス交付の事務負担を軽減

 (1)一定規模の事業者は帳簿のみ保存で可

基準期間の課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの課税仕入れが1万円未満の場合、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができるようになります。

(2)1万円未満の値引はインボイス不要に

売上げに係る対価の返還等が1万円未満の場合(1回の取引の課税仕入れに係る税込金額で判定)、適格返還請求書の交付義務が免除されます。これにより振込手数料相当額が控除されて支払を受ける場合も、返還インボイスの交付は不要となります。

 

インボイス登録制度見直しと手続き柔軟化

 免税事業者がインボイス登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする場合、当該課税期間の初日から起算して15日前の日(現行は当該課税期間の初日の前日から1か月前の日)までに登録申請書を提出するよう期限が緩和されました。 

また、インボイス発行事業者が登録の取消しを求める届出書を提出し、翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合は、その翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行はその提出があった課税期間の末日から30日前の日の前日)までに届出書を提出するよう期限が緩和されました。

なお、令和5年10月1日からインボイス登録を受けようとする事業者が登録申請書を令和5年3月末までに提出できなくなった場合、「困難な事情」の記載がなくても、4月以降に登録申請できるようになります。

 

役員報酬の改定は新事業年度開始から 3 か月以内

役員報酬の改定は新事業年度開始から 3 か月以内

役員報酬の改定は新事業年度開始から 3 か月以内

取締役の報酬の改定(法人税法の観点から)

 取締役の報酬は、「定款に定めのないときは、株主総会の決議によって定める」と会社法で規定されています。これはお手盛りによる弊害を防ぐためです。

 さらに、法人税法では、役員(=取締役の他、税法上のみなし役員も含みます)に対する報酬は、定期同額給与でなければ損金算入されません。役員報酬の増減で法人の利益操作をすることを防止するためです。

 そして、その改定は事業年度開始の日から 3 か月以内にされたものでなければ損金不算入となります。

新報酬決定後の改定

 一般的には、定款の変更ではなく、決算承認が行われる定時株主総会で役員報酬の改定が決議されることになると思われます。そして定時株主総会は、会社ごとに決算を締める所要時間を鑑みて、たとえば 2 か月目の 25 日前後などと、ほぼ毎年同じ時期に開催されているものと思われます。

 もし、新規の大きな売上が発生し会社の利益増が予想できる場合において、1 か月でも早く役員報酬の増額をしたいと考えたときには、定時株主総会を前倒しするか、臨時株主総会を開催して、新事業年度 1 か月目から増額した役員報酬を適用させることもできます。

 また逆に、存外に顧客の離脱(=顧客の倒産もままあります)が発生し、計画していた売上と利益が大幅に減るような事態となった場合にも、事業開始 3 か月以内であれば、減額改定もできます。

 この 3 か月という期限を超えた増・減額改定は、法人税法における損金不算入となります。

 しかしながら、個々の事情に照らし、税務上の取り扱いが判断されますので、業績等の悪化により役員給与の額を減額することをご検討の際は、顧問税理士とよく相談してください。

 

社会保険料月額変更の影響も考慮のこと

 役員報酬の増減は会社の損益に影響しますが、もしその増減の幅が大きければ(=社会保険の標準報酬の等級が2以上変動する場合)、会社負担の社会保険料の金額も増減します。そのため、役員報酬額の増減について検討する際は、社会保険料の増減の影響も踏まえた上でのシミュレーションが必要です。